宣告
前半戦を終え、束の間の小休止。――そろそろ頃合いだ。
程よく酔いもまわり、其処彼処でいよいよ盛り上がる歓談を断ち切るように私は告げた。
「皆、ちょっと聞いてくれ。ここで発表したい事がある」
会場が静まり返る。
「皆、よく戦ってくれた。正直ここまで多くの”名画”を見られるとは思ってもみなかった。どれもこれも素敵だ。私のHPの新コーナーを見事に彩ってくれると思う。本当に感謝している」
これは本心だ。しかし、本題はここからだ。
「この調子で後半戦も頑張って欲しい。だがその前に、知っておいてもらいたい事があるんだ。――そう、罰ゲームについて」
全員が固唾をのんで注目する。それもそのはず。彼らにとっては最大の関心事であるに違いない。
「心配はしなくていいんだ。恥ずかしい格好で外を歩かせたり、痛い目に会うような事はない。ごくあたりまえの事をしてもらうに過ぎない」
嘘は言ってなかったが、全員が信用していないことは明らかだった。
「単刀直入に言おう。最下位の者にはこの飲み会の清算をしてもらう。もちろん自腹を切れなんて言ってる訳じゃない。ここは完全に俺の奢りだ。代表で支払いをしてもらうだけだ。お金もここに準備してある」
傍らに置いてあった鞄の中からブツの入った$袋を取り出す。
皆が息を飲む瞬間・・・私にとってはまさに至福の時。
テーブルにそれを置く。ドチャッという重量感のある音。
「――全て、小銭でな」
場が凍り付いた。
「ま・・・待て!」
SYO氏とShun氏が声を上げたのが同時だった。「キサマ、知らないのか?!小銭での支払いは・・・」
私はそれを遮った。
「20枚以上の硬貨は店側が受け取り拒否できる・・・・・だろ?」
二人が黙って頷く。
「御心配なく。ちゃんと店側には事前に話を通してある。電話での確認と、さっきトイレに行った時に店員さんを捕まえて再度了解を得た」
――――今回の支払い、ちょっと細かいのが多いけどゴメンね――――
全員が毒気を抜かれたように$袋を注視している。事の重大さにようやく気付いてくれたようだ。
私は言葉を続けた。
「・・・重さにして3.8kg。硬貨の総数は900枚を超えた」
母が銀行で恥ずかしい思いをしたのもよくわかる。
ただの両替とはワケが違う。
「ここの会計が確か・・・8万円前後だったか。この袋に、十分支払えるだけの小銭が入っている。ただし、幾ら入っているのかは教えない。簡単に引き算されてしまっては意味がないからな。一人できちんと1から数え、計算しやすいように分別して、レジで払ってきてくれ。他の皆は先にホテルに帰る」
やる事はただの”支払い”。日常で誰もが普通にやってること。
行為そのものだけ見れば、それは「お金を数える」というとても幸せな作業。
――私は一つも嘘はついていない。
「ちなみに、札は1000円札が5枚だけ。残りは全て1円・5円・10円・50円・100円・500円硬貨ばかりだ。それぞれの枚数はバラバラだし、ごちゃ混ぜになってる」
・・・あがけ。
「店の人に怒られたら、よく謝っておいてくれ。もちろん自分が今サイフに持ち合わせている札を最大限使って、使用する小銭の数を減らすのは構わない」
血ヘド吐くまであがくがいい。
「もっともその場合、私が後に受け取るお釣り以外の小銭は当然全てその者の持ち物となるからそのつもりで。重いぞ。その前にサイフに入るかな?」
呪詛の言葉を笑顔で飲み込み、私は対戦カードのシャッフルを始めた。
後半戦はさぞ熾烈を極める対戦が期待できるだろう。カードを取り出す。
「さあ。パーティーはこれからだ」