そして、刑は執行された
戦いは終わった。
しかし、「彼」の戦いはこれからだ。
ヤーマ――奴にはこれから我等を代表して恥をかいてもらう。
8万円分の小銭を一人で数え、レジにて清算してくるのだ。店員の冷たい視線を浴びながら。
友人として心苦しいが、これはルールだ。
敗者は淘汰されなければならない。それがこの戦いの掟だからだ。
「ヤーマ・・・起きてくれ」
この期に及んでなお寝ていられるとは一体どういう神経なのか。彼は自分がどういう立場に置かれているのか判っているのだろうか。
我らは早々にここを立ち去らなければならない。しかしお前には、まだやらなければならない仕事が残っているのだ。
「ヤーマ、起きるんだ。眠いところ大変恐縮だが――」
「ん?・・・あ、うん。やるよ。数えりゃいいんでしょ」眠気なまこで立ち上がったヤーマは、そのまま平然と私の手から$袋を受け取った。
泣き叫んで許しを乞う姿を期待していた私は、そのあまりにも呆気らかんとした態度に逆に拍子抜けした。え?ホントにやるの?イヤじゃないの?
――コイツは昔からこうだった。
大物なのか鈍感なのか・・・いくつになっても底の知れない男だ。
「ちょ・・・ちょっと待つんだヤーマ。実は救済措置を用意してあるんだ」
すっかり調子を狂わされた私は、さっさとテーブルの片付けを始めたそうにしている店員さんの視線に焦りを感じつつ早口にまくしたてた。
「ここに4枚の一万円札がある」
財布から取り出した4万円をヤーマの前に差し出す。なぜかあまり興味無さげなヤーマ。コイツは本当に起きているのだろうか?
「任意の相手を4人選んでジャンケンしろ。一人に勝つ毎に一万円を渡そう。その分だけ小銭を数える手間は省けるだろ」
私とて鬼ではない。
もし罰ゲーム対象者が女性だった時の為に用意しておいた救済措置だった。
ヤーマに適用する義務は無かったが、時間もとうに超過している事だし、これ以上店に迷惑をかけたくもなかった。
私は、鬼ではないのだ。
店を出ようとしていた最後の4名を呼び止め、ジャンケンをするヤーマ。
結果は2勝2敗。まずまずだ。ヤーマに2万円と、特別サービスでもう1万円渡す。
「残り5万円分の勘定は任せたぞ。じゃ、先にホテルに帰ってるからな」
ヤーマを残し、我らは店を後にした。
途中すれ違った一人の店員さんを呼び止めて「彼を手伝ってあげてね」と一言残して。
店の前の通りは、USJ帰りの人々でまだまだ賑やかだった。
夜気が心地良い。とにもかくも宴は無事に終わった。収穫も大きかった。大満足だ。
他のメンバーはというと、ホテルの部屋で飲み直すためのアルコールを買い出しに行く者、土産屋を覗く者・・・皆、それぞれ自由な時間を過ごしている。
その中にDACK2姐さんが居ないことは既に気付いていた。彼女はヤーマを手伝って一緒に勘定しているのだ。罰ゲームである以上これは本来許されるべき行為ではなかったが、目をつぶる事にした。
ヤーマよ。今回だけは彼女の優しさに甘えさせてもらうといい。
そして私は――店の前でただ待っていた。
彼らが無事に「仕事」をやり遂げて店から出てくるのを笑顔で迎えるために。
「よくやったね、お疲れさん」と抱きしめ、軽くなったお釣り入りの$袋を受け取るために。
――――そう。
この時、私はまだ気付いていなかったのだ。
・・・自分がとんでもない過ちを犯していることに。
ヤーマとDACK2姐さんが店から出てきた。
少しは憔悴した表情を見せてくれるかと思えば、なんとも晴れやかな笑顔だ。またも拍子抜ける。
「いやー、姐さんと店員さんが手伝ってくれたし楽勝だったよ。一番大変だったのはきっとレジのお姉さんだね 」
・・・ちっ。やはり甘かったか。
救済措置なんか適用するんじゃなかった。
「確かに店には迷惑かけちゃったけど、当分両替には困らないだろうから良かったんじゃない?はい、コレ。お釣り」
ヤーマが$袋を差し出す。
ま、皆に愉しんでもらえたならいっか・・・そう思いながら袋を受け取る。
ズシリという重量感。・・・おや?
「あとヨロシク☆」
ヤーマが笑う。
・・・あれ?・・・なんで?
これ――ホントに減ってるのか?
な ん で こ ん な に 重 い ん だ ? ?
「ちゃんと重さを測っといてね♪」
DACK2姐さんがニッコリと微笑む。
その笑顔も言葉も、霞みかかった私の意識を通り抜け、周りの喧騒の中に溶けていった。