第十一章 「ボンクラ独身生活リターンズ」

 

 


「お兄ィ、アンタ相変わらず寝癖ヒドいな・・・。あの将棋の羽生名人だって結婚してからはトレードマークだった寝癖が直ったっつーのに、なんでアンタは結婚しても変わらんのよ」

TAC
「羽生さんは奥さんがしっかり身だしなみのチェックしてんだろ。ウチの場合はな、ヨメが寝癖バリバリなのに俺が直るワケねーじゃん 」

 

 

本日も妖怪アンテナ絶好調。
TACです。

 



12月。予定日まで残り3ヶ月を切った。

前述した通り、ヨメは北海道の実家で自然分娩の予定。向こうでの検診やムラカミ先生との綿密な打ち合わせのためにも、そろそろ里帰りして出産に備えなければならない。
年明け前にするか、結婚後最初の正月くらいはこっちで過ごしてからにするか――ギリギリまで迷っていたが、結局クリスマスの翌日26日に発つことになった。
産んでからも暫くは帰って来れないので、実質4ヶ月近くはお別れということになる。

 

 

 

 

 

 

・・・そのまま帰ってこなかったらどうしよう。(結構マジ)

 

 

 

 

TAC
「アンタ、少しは寂しいと思ってンのか?」

ヨメ
「思ってるよ。収穫祭出来ないし

TAC
「そっちかよ」

 

 

 

旅立つ当日は、仕事を中抜けして岐阜駅まで送っていった。
寂しさをこらえ、「頑張って産んで来い!」と笑顔で見送ったのだが、ちょうどその時どっかの踏み切りでトレーラーが脱輪事故をかましたらしく電車ゲロ遅れ。
結局予定の便には間に合わず、代替の便に乗るまで空港で3時間あまり時間を持て余したそうな。なんだか先行きとっても不安。

駅で偶然会った出勤前のやよいさんが、ヨメが空港行きの電車に乗るまで付き添ってくれた事が大助かりだった。感謝!

 

 

 

 

 

 

さて、この日から晴れてTACは再び独身生活に戻った。
しかも結婚前のように実家ではなくアパート暮らしなので、20代前半以来ひっさしぶりの完全一人暮らし。

女連れ込むなら今がチャンc徹夜でゲームしよーが日曜昼過ぎまで寝ていよーが誰にも文句言われない。(今まで言われてたワケじゃないけど)

 

そう。寂しい反面、実は結構ワクワクしていた。

 

 

 

 

 

しかし、やはり実際はそう甘くなかったのである。


【掃除洗濯編】


TACは決してキレイ好きではない。
実家にいた頃も、掃除なんてせいぜい年末の大掃除くらいしかしない。

しかし散らかっているのもまた好きではない。
棚やタンスから出したものは、あとで必ず元の位置に戻すことを心掛けている。また可能な限り、部屋の何処かに何も置いてない空間を設けたいと常に思っている。
 

つまりかつてのTACの部屋は、壁際こそ煩雑として埃も溜まっているが部屋の中央だけは広々と拓けているため、一見「片付いてる」ように見えたものだ。

 

そして結婚。アパートに入るまで実家でヨメと同居したわずか2ヶ月足らずで・・・

我が部屋から床が消えた。
正確に言うと、床が見えなくなった。

 

 

 

――そんなヨメとアパートに二人暮しを始めて半年あまり・・・

 

新居は予想通り焦土と化した。
おそるべしヨメの「片付けられないウィルス」の感染力。

 

 

 

 

 

・・・というわけで、TACの一人暮らしはまず大掃除からスタートした。
ヨメが居ない今こそが、これ以上の汚染拡大を止められる唯一のチャンスだからだ。

死守するように厳命したはずがすっかり足の踏み場も無い居間と和室。散らかっているものを片っ端からかき集め、おおまかにジャンル分けして収納できる場所に詰め込んだ。要らんと判断したものはバンバン捨てた。どっちか判らんものは魔窟に放り込んだ。
とにかく、居間と和室だけはいつでも女連れ込める客を招待できるレベルに戻した。

魔窟だって整理整頓した。
積み上げられた服の土手を解体し、分類して押入れやタンスに収納。これで布団の周りは随分スッキリした。

まさに劇的ビフォー&アフター。

ヨメが留守の時の方が断然キレイな我が家。
でもこれってやっぱり問題だと思う。

 

 

メンドくさいのはむしろ洗濯だ。
TACの仕事着はツナギなので結構かさばる。溜め込むと後がタイヘンだが、毎日はしたくない。
となるといろいろ横着なことを考えるようになる。

幸運にも季節は冬真っ只中だったので夏ほど汗もかかないし、一着のツナギを二日続けて着れば一週間で3着しか使用しない
さすがに下着は毎日替えるとしても、6日分の下着と3着のツナギならなんとか週一回だけの洗濯で済む。

 

問題は干す場所で。
ベランダの物干し竿で干すと、季節がらTACが帰ってくる時間帯には凍っている可能性もある。当然室内干しになるが、室内でハンガーをかけられる場所といったら居間と和室を隔てる引き戸の上のカーテンレールくらいしかない。
一週間分の洗濯物はさすがにかなりの量がある。引き戸を2枚とも外せばスペース的には干せない事もないがそれはメンドくさいので、出来れば引き戸を開いた片側のカーテンレールだけで何とか干したいと考える。

絶望的にスペースが足りない

 

 

ラクするためなら手段を選ばないTACさんが考えた、究極に横着な干し方は・・・

コレ(↓)だ。1・2・3!

 

 

 

 

 

 

 

まるでトーナメント表のような連鎖分岐吊り

 

”奥義・ハンギングツリー

これで狭いスペースにも全ての洗濯物が干せる。実際やってみると、その姿はクリスマスツリーのようにエラいことになる。ツナギは完全に床に触れる。

はい、もちろん壊れました。(一番上の傘の骨みたいなヤツが)
ヨメさんには内緒だZE★

 


【炊事編】


一番の問題といったらやはり「食事」である。

TACはまるっきり料理が出来ない。
専門学校生時代は食堂付きの寮生活だったし、前職場時代の一人暮らしでも(当時の彼女など)食事を作ってくれる人は他にいた。以後、結婚までの十余年ほとんど実家にパラサイトしてたから、基本的に自炊の必要が無かったのである。
かつて友人宅にてみんなで夕食を作る機会があり、TACは厚焼き玉子の担当になったが――無知なTACは一度に全ての溶き卵をフライパンに流し込んでしまったため、中に火が通るまで根性で焼き続けたら外側が真っ黒に焦げた。
出来上がったその姿は見事なバームクーヘンだった。

それくらい料理に疎いのだ。

 

 

母は「毎日でも二日にいっぺんでもいいから、ウチに食べに来なさい」と言ってくれた。実際、最初はバリバリお世話になるつもりでいた。
しかし気楽な一人暮らしがいざ始まってみると、仕事が終わったあと実家に行ってメシ食って帰ってくることの方がやたらメンドくさい。結局自分で簡単に作って済ますことになる。Let's try はぢめてのじすいせーかつ

――幸い、ヨメがカレーやシチューなどの残りを冷凍パックして大量に保存しておいてくれたので、しばらくはそれでしのいだ。
即席の味噌汁も缶詰もかなりストックあるし、北海道の実家からケースで送ってもらった明太子やイカの塩辛なども冷凍庫の奥に貯蔵されている。冷蔵庫の中が空になるまで食料の買出しは控えるつもりでいたが、実際2ヶ月以上持った。たまに朝食シリアル用の牛乳・卵・納豆・ペットボトルのお茶などを買い足すくらいだ。

・・・TACはどうやら基本的に納豆さえあれば生きていけるようである。なんて経済的なんだ俺。

 

 

さて、それらの貯蔵食料を食い尽くしてからが本格的な自炊生活の開始である。
世間では某国製の毒入りギョーザが話題になってたが、生きていくため背に腹は変えられんのでカモン冷凍食品インスタントマンセー。
でもそんなモンばっか食ってたらイカンのもよく判ってるので、たまに包丁を取る。TACの料理コンセプトは、「如何に野菜を効率良く摂るか」という一点に絞られていた。
ネットとは便利なもので、料理ビギナー向けの簡単レシピなど探そうと思えばいくらでも出てくる。
その中でも特に簡単な野菜料理としてTACが好んで作ったのは「野菜の重ね煮」というものだった。

こいつはホントに簡単である。
とにかく冷蔵庫の中にあるめぼしい野菜を取り出して刻む。とにかくひたすら刻む。
鍋にひとつまみの塩を振った後、それらの刻んだ野菜を種類ごとに層になるように重ねて敷き詰めていく。このとき、上に伸びる葉菜系を底の方に、下に伸びる根菜系を上に重ねるのがポイントらしい。
最後にもう一回塩を振って蓋をし、トロ火で煮る。火を止めるタイミングは、「良い匂いがしてきたら」と反射と直感で生きているTACにも実に判りやすい。

火から下ろしてよく混ぜてみると、味付けは塩だけなのに濃縮された野菜の旨みが良く出てコレだけで十分食える。 ありがたいのは水を使わないので酸化しにくく、保存が利くという点だ。作り置きしておけばいろんな料理に活用できるので重宝した。

一度「だったら一週間分まとめて大量に作っちゃえ」と、にんじん・シイタケ・にんにく・ゴボウ・じゃがいも・タマネギなど大鍋いっぱいの重ね煮にチャレンジした事がある。
見事に焦がした。
あんまり量が多過ぎると、全体に火が通る前に外側が炭化するようだ。あれ?バームクーヘンの頃から全く学習できてないね俺。
高価なドイツ製のフィスラー圧力釜の底に、厚さ1cmに及ぶ黒炭の層がガッチリと固着して取るのにかなり苦労した。ネットで焦げの取り方を検索してみたら、「酢で煮る」「重曹で煮る」などの方法がヒットしたので、その両方を投入して煮てみる。取れない。

ってか中和してンじゃん俺のヴァカ。(酢酸:酸性×重曹:アルカリ性)

 

 

 

毎日がこんな感じで、試行錯誤というよりはむしろ「実験」に近い料理の日が続く。
とにかく自炊で学んだ大切なことは、

(1)安易にコンソメを投入しない

(2)安易に煮豆を投入しない

(3)特に上の二つを同時にやらない

 

・・・同時にやりました。←アホ
しかもラーメンに。←ドアホ

はい、劇的にマズかったです。3歳児未満に食わせたら多分死にます。

 

 

あと、料理における自分の最大の問題点はやはり包丁の扱いがなってない
千切りのつもりが短冊切りに。気合入れてみじん切りをやれば、やりすぎて根菜もペースト状に。

特に苦手と言うか全く出来ないのは皮むきで。

たとえばジャガイモの皮むきをする場合、普通はこんな感じ(↓)でやるものだが、

 

TACの場合はもっと漢らしく大胆にカット。

面で削ぎ落とす

”奥義・ポリゴンスラッシュ

何個か剥いた後に捨てる部分をかき集めたら、それだけでジャガイモ一個分の質量はあるような気がする。
もったいないオバケに八つ裂きにされそうだ。なんて不経済なんだ俺。

 

 

 

自炊にも慣れてくると、またいろいろ横着なことを覚えるようになる。

まずキッチンから出ない。調理中はもちろん、食事もその場で立ち食い。
洗い物を極力減らすために、オカズを出来上がったものから順に食いきる事で一つのどんぶりを使いまわす
鍋で作ったものは鍋から直接食うのはもはや当たり前で。
それをうっかり忘れて汁を啜ろうとして唇ヤケドかますのも当たり前で。(それは当たり前ぢゃねぇだろ)

 

 

 

 

 

あと、他にも――

ヨメが冷蔵庫の奥に置きっ放しにしていた牛乳パックが破裂寸前の爆弾と化してたり、

もうパッツンパッツン(幾重にも重ねたビニール袋に包まれ無事処理完了)

 

ヨメが冷凍庫の奥に置きっ放しにしていた正体不明の液体をシチューだと思ってレンジでチンしたら桃ジュースだったり、

温かくて甘ったるい(これは根性で飲んだ)

 

・・・・とにかく、何かとネタに尽きない食生活だった。
一人暮らしってやっぱりタイヘン。

 



そういえば、ヨメが居ないこの期間に一つ嬉しい事があったので勝手に報告する。

 

既に誰も覚えてはいないだろうが(俺も忘れてたし)「妖怪百鬼夜号計画」このページでホント軽い気持ちで応募かけていた「オイ!鬼太郎ホーン」

なんと「作ります」と名乗り上げてくれた人がいた。

 

実は「岐阜県から国道156号線をひたすら北上して福井県を目指す」という投稿動画(ニコニコ動画:アカウント必要)が存在し、その道中、美濃市のとある交差点で信号待ちしてたらたまたま百鬼夜号に乗ったTACが目の前を横切るという、まさに奇跡のようなシーンが 収録されている。
この動画を見た岐阜在住のある人が検索で我がHPに辿り着き、掲示板に書き込みしてくれたのだ。

「音源と、アンプ付きスピーカーだけそちらで用意してくれたら、後はこちらで回路組みます」

彼(仮名Pさん)は岐阜市内で電子機器回路設計やコンピューターのソフトウェア開発を手がける専門家。まさにハード・ソフト両面におけるプロフェッショナルだったのである。
なんという巡り合わせ。さっそくお願いする。
 

 

とりあえず手頃なお値段のアンプ付きスピーカーとしてPさんが紹介してくれたメロディーホーンを即効で購入。よく見たら、以前TACがファーストカーのAE92レヴィンにこっそり付けてたのと全く同じモノだった。
こいつは動物の鳴き声やサイレンなど10種類の効果音の他、付属のマイクで音声を発する事も出来る。つまりこれならマイク端子がそのまま音声入力に使えるので都合がいい。
Pさんが作ってくれる回路からのライン出力を、そのままマイク端子に繋げばいいのだ。

 

問題は目玉親父の音声データだが、これにも頼もしい友人の協力を得られた。
境港の水木しげるロードでミニFM放送「鬼太郎放送局」を運営しているしょうさんが、いとも簡単に用意してくれたのだ。(しかも2パターン)

しょうさんから貰ったwav.ファイルをそのままPさんへメール添付して送信。

 

 

 

 

そして、あっという間に完成。(仕事早っ!!)

Pさんの製作日誌はこちら

カンペキである。

電源スイッチの他に、2パターンの「おい!鬼太郎」を切り替えるスイッチ付き。
右端の赤いボタンが「再生」である。押せばその都度アタマから「おい!鬼太郎」を再生してくれるので、リズムに合わせた連打によるラップも可能。
カンッッッペキに注文通りの完成度。音質も良好。
ついつい意味も無く鳴らしまくってしまう。

 

Pさんはオーバーオールのよく似合う大変フレンドリィな人だった。
ありがとうございました!!!

 

 

 

 

 

 

 

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