第三章 「前撮りはアンパンマンと共に」
そして3月。
この一ヶ月はホントあっという間に過ぎた。
こちらから参加してくれる友人のつーくんに友人代表挨拶を。もう一人の友人かーしゃには式でのベストマンをお願いしてある。ベストマンとは、まあ平たく言えば新郎の手袋持ちだ。(平たく言いすぎ)
彼らの家族とウチの親族、そしてネ友の美人妻やよいさんは23日に。京都の居酒屋親父Shunさんが翌日の24日に、それぞれ北海道入りの予定である
。親族分の飛行機の手配と、総勢21名分の宿泊の手配も終えた。
・・・これらの料金だけで、指輪購入のために初めて持ったクレジットカードの月使用限度額をあっさりと超え、いきなりクレジット会社から出し渋りされる始末
。(カノジョ側親族(約60名)の中に宿泊する人がいなかったのは幸運だった)
――ちなみに親族分の諸処の手配に気をとられて、肝心な自分の分の飛行機の手配をギリギリまで忘れていたのはココだけの秘密だ。
あやうく新郎不在の結婚式になるところだった。
そしてついに迎えた式四日前の21日「春分の日」――
「ンじゃ、ちょっくらケッコンしてくる」
TACは一足早く北海道にやってきた。
昼過ぎに札幌駅に着き、その足でポールスター札幌へ。
チェックインしたがゆっくりもしていられない。今日は夕方から、初めて司会者を交えての打ち合わせがあるのだ。
とりあえずカノジョがホテルに来るのを待つ。
打ち合わせの時間まで結構余裕あるし、久しぶりの二人っきりだし、あんなコトとかこんなコトとかぐへへずるる・・・あ、いらっしゃった☆
さあマイハニィ、俺の胸に飛び込んでおいで。
カノジョ
「指輪引き取りに行くから服着ろ」
・・・・・はーい。・・・あれ?なんだろ、目からなんか汁が。
そういえばカード支払済みだったのですっかり買った気分でいたが、肝心のブツをまだ店に取りに行ってなかった。
あやうく指輪の交換ナシの式になるところだった。
無事に指輪を回収し、ホテルに戻る。
司会者のお姉さま、そしてコーディネーター小池さんと向き合い、定刻どおりに4人で打ち合わせ開始。
小池さん
「プロフィールカードはお持ち頂けたでしょうか」
TAC
「はい、こちらに。御奉納ください(と、濃幌新聞を渡す)」
これが大変ウケる。
司会者のお姉さん
「――以上の段取りで披露宴は進行します。最後は両家の代表として新郎の御父様から挨拶を頂きますので、金屏風の前に皆さん一列に並んでいただきます」
TAC
「一番前のヒトは腰に手を当てるんだよね」
小池さん
「・・・・・・・・」
カノジョ
「・・・・・・・・・・・」
(二人同時に)
「縦に並ぶのかよっ!!」
なんか打ち合わせの間中、ずっと一方的に爆笑されてたよーな気がする。
こちとら大マジメなのに。
その後はカノジョのご両親と合流して焼肉を食いに行った。
カノジョの兄さんも電話で誘ったのだが、仕事が遅くなったようで会えなかった。
翌22日(木)。
朝10時頃目覚める。ホテルのシングルで。
ええカノジョは結婚式当日までの3日間、TACの部屋に宿泊する予定は全くナシ。「結婚する日まではきちんと家にいなさい」という父上様からのお達しだそうです。
何を今更ええその通りだと思います泣いてないよちょっとコオロギが目に入っただけ。
でもね。いいの。今日のTACはゴキゲンなの。うふふ。
もうすぐカノジョが部屋に来るんだけどね。打ち合わせは昨日終わったし前撮りは明日だしそう、今日はフリー日なの。カノジョと独身最後のデートでもしようと思うの。
でも出かける前にちょうどココにおあつらえ向きのベッドもあることだし、あんなコトとかこんなコトとかぐへへずるる・・・あ、いらっしゃった☆
さあマイハニィ、俺の胸に飛び込んでおいで!
カノジョ
「披露宴で使う備品の調達に行くから服着ろ。つか、なんで脱いでんだ」
・・・・・はーい。・・・あれれ?なんだろ、目から汁が止まらない。
披露宴でのドレス色当てクイズは投票制なので、選択肢分の投票箱が必要。
また入刀用のウェディングケーキにも、当日会場のお子様たちによるフリートッピングの時間を設けてあるので、トッピング用の各種具材(果物や小菓子など)を用意する必要があるのだ。うん、式の
三日前にやる事ぢゃないと思う。
これらの買出しに札幌地下街へ繰り出し、大量の紙袋を提げて帰る。
帰ってからもイチャついてる時間は無かった。
すでに投票箱は赤、緑、青、黄の4色に色分けしてあるが、さらにドレス型に切り抜いたマスコットをぶら下げるらしく、100円ショップで買ってきた各色のフェルトをハサミでジョキジョキ。他にもダンボールとかジョキジョキ。毛糸結んだり、ネイル用のデコシールぺたぺた。周りは切り屑など散乱。
ホテルのベッドは完全な工作場と化す。
ひとしきり工作をした後、カノジョは「じゃ、アタシ家でウェルカムボードの続き作らなきゃいけないから」と、戦場のよーな部屋にTAC一人を残して風のよーに去っていった。
・・・ケッコンした後は遠慮しねーぞ、オボエテヤガレ。(目から汁タレ流しながら)
翌23日(金)。
今日の夕方には親族どもが北海道入りする。・・・でもその前にもう一つ、大仕事が待っているのだ。
アルバム用の前撮りである。当日の衣装をカンペキに着付けられ、プロのカメラマンに撮りまくられる。
既婚の友人からは「あんな疲れるモンだとは知らなかった。二度とやりたくない」と散々吹き込まれていたが、そんなもん吹き込まれなくともTACはやりたくないです。堅苦しい格好をさせられるのも写真撮られるのも大嫌いです。
まず和装。次に洋装。
それぞれ散々時間かけて着替え、まずスタジオ撮影。続いて挙式殿やチャペルに移動してスナップ撮影。なんかただ突っ立ってるだけだけなのに死ぬほど疲れる。
・・・しかしまあ、なんですな。
笑顔ってなんでこんなに難しいのだろう?二人とも全然フツーに笑うことが出来ない。
カメラマンの人はなんか有名なプロの人らしく一切の妥協が無い。つまりイイ顔で笑うまではなかなかシャッター押してくんない。
(もうエエからさっさと撮ってくれぇ〜)
顔面の筋肉組織が崩壊しかけるほど引き攣った笑顔の裏で、二人は必死に祈っていた。
なかなか自然に笑うことが出来ない我らに業を煮やしたカメラマンの先生。
ついに最終兵器を取り出す。
先生
「は〜い、こっち見て〜。もう少しだから頑張って笑って〜」
俺らはガキか。
・・・少なくとも写真撮影で筋肉痛になったのは後にも先にもコレが初めてだった。(どっか変な場所に力入ってたようだ)
ちなみに洋装のロケーション撮影で「何か”こんなシーンを撮ってほしい”などのリクエストありませんか?」とカメラマンの先生に言われたTAC、
「俺色を出すならココだ」とまたしてもネタに走る。これはもはや業だな、うん。
TAC
「カノジョの尻を触ろうとした僕が壮絶なカウンターパンチを喰らっている決定的瞬間を後ろからローアングルでお願いします」
で、撮ってもらったのがコレ↓。
テンプルにクリーンヒット
・・・残念ながらアルバムには収録されなかったので(先方の冷静な判断によりボツられた模様)、ココに特別公開。
ヘトヘトになって真っ白に燃え尽きた二人。
ホテル一階の喫茶スペースで矢吹のよーにうな垂れながらコーシーなぞ啜る。
しかし次の台風はすぐやって来た。
飛行機・電車・タクシーと乗り継いで、ついにTACの親族&友人家族がホテルに到着したのだ。
ガキども
「タクちゃぁああぁあぁあ〜〜〜〜ん☆」
姪×3と、つーくんトコのガキ×3が歓声を上げて突進してくる。長時間移動の後なのになんでそんなに元気いっぱいなんだおまいら。
全身に纏わり付かれ、疲弊した体から更に生命エネルギーを吸い取られるTACさん。
まるでツーリアンに潜入した直後いきなりメトロイドにたかられるサムスな気分。
自分で言うのもなんだがネタ古っ
ちなみにこの時、TACはともかくカノジョは前撮りの化粧をまだ落としてない状態。
両親も妹らも初めて見るカノジョの化粧顔に「おおー・・・」とどよめいていた。うん、人のコトは言えんが地味に失礼な奴らだ。
その後はカノジョの両親と合流して皆で食事に行った。
そのときに初めてカノジョの兄さんと会ったのだが、なんとまあガッシリとした体格の長島一茂似イケメン。
・・・彼とケンカだけはすまいと心に誓う。
メシは大変旨かった。
義弟らも、北海道の海鮮尽くしにほとんど半狂乱。・・・これこれ君たち、みっともないな。子供じゃないんだからもっと落ち着きたまえよ。私なんぞはもう何回も北海道に来てるからね、君らとはうわ何コレうめーーカニうめぇーーーー!(半狂乱)
ホテルに帰ってまったりしていたら、やよいさんから「今ホテルの前まで来てるんですけど」とメールが入る。
彼女は京都でのオフで知り合ったネ友。まだ片手で数えられるほどしか会った事ないのだが、今回結婚式に参列するためにはるばる北海道まで来てくれたのだ。ちなみに同じ岐阜のヒトである。
とりあえず二人でホテルの近くの居酒屋に行き一杯。結婚式前々夜に人妻と密会しているオトコTAC。途中かかってきたカノジョからの電話にちょっと焦った。ナニもしてませんてば。
翌24日(土)。
結婚式前日――つまりドクシン最後の日。
つーくん・かーしゃ家族は朝早くからバスに乗って今人気の旭山動物園へ出掛けていった。以前からこの為にパンフ買い込んだりして下調べもしていた模様。
どうやら彼らにとって式への参列は北海道観光旅行のついでのようだ。(
えぇえぇ
我らもこの日は基本フリー。親族らは明日の披露宴が終わり次第その足で空港へ一直線なので、彼らが「観光」らしきものをするとしたら今日しかない。
TAC
「で、アンタら何処行きたいんだ?」
親父
「別に・・・どこでもエエわ」
お袋
「あんまり遠出は疲れるで、近場の方がいいなぁ」
妹ども
「子供らが遊べればそれで・・・」
義弟ども
「北海道に来たメインの目的は食いモンなんで特に行きたいところは無いっス」
こいつら全員やる気なし。
ってオイこらシロー、嘘でもいいからメインの目的は結婚式と言いやがれ。
・・・しょうがない。
ここはカノジョに一任だ。こいつらを北海道ならでわってトコに連れてったって。
カノジョ
「ぢゃあ・・・、動物園に行きますか」
なんでそーなる。
結局―――家族一同とやよいさんで、雪が残る円山動物園(市内)に行った。
ちょっとビビるほどデカイ虎が、ガラス檻の中を延々ぐるぐる回ってた。しばらく観察してみたが、一向にバターになる気配は無かった。
室内展示場の中がツンノメるほど臭く、途中で寄ったトイレの方がよっぽどイイ香りという珍しい経験もした。
その夜は、はるばる京都から結婚式のために駆けつけてくれた居酒屋親父Shunさんも合流し、ジンギスカンを食いに行った。
明日本番だっつのにこんなニンニクがっちょり暴飲暴食しててイイのかしら俺。
(イイわけがない)