第四章 披露宴”札幌場所”、運命の当日

 

 

泣いても詫びても25日(日)。結婚式当日。
人生最大ともいえる記念日の朝は、姪のミサトに顔を踏まれて目覚めました。コレって未来を暗示してるのでしょうか。

姪のミキもミサトもマユも、この日のために買っってもらったドレスを着せられ御満悦の御様子。
でもその姿でいつものように布団の上で転げ回っているのはどうかと思うぞ。

(ちなみにミキは式でフラワーガールをする予定になっている。新婦入場の時、バージンロードを花びら振り撒きながら先導するアレだ。大丈夫か

 

 

サロンに顔を出すと、小池さんに呼び止められる。祝電が何通か届いてるから、披露宴で読み上げるのを3通ほど選択してくれという。
一通り目を通していると、カノジョの家族がホテルに到着した。ここで初めて、カノジョの弟と会うことになる。式当日に義弟と初対面て。
兄さんとは対照的な、線の細い美男子だ。彼にならケンカで勝てそうな気が。(するな)

もうすぐ9時。
式は11時半から。自分もそろそろ衣装室に行かねばならぬ。

確か30分前にはリハーサルがあるからチャペル来い言われてたな。・・・写真撮影もあったよーな気が。

待てよ?カノジョにもうすぐ届くウェディングケーキの受け取り頼まれてんだよな。

オイちょっと待て、披露宴の最初にいきなり新郎挨拶があったはずだぞ。ナニも考えてねぇ。

RRRRRRR』「はいモシモシ」『JA●カードの者ですが先日の支払いの件、本社から許可が下りたので』はいはいはいはいアリガト今これから本番だっつの。

「お兄ぃ、ミサトとマユがチャペルでベール持ちやるそーなんだけど。途中でゴネると思うよ。その場合どーすんの?」
知るか。

親父「ところで式場の”すずらん”て、何処なんだ?」
それは控え室だ。

小池さん「新郎さまはそろそろ3階の美容室へ・・・」
だぁーーーーーーーーーっっっ!!!

 

 

TACさん、パニックに陥る。
ただでさえメモリが足りないから同時に3つ以上のアプリケーションを立ち上げるとフリーズする仕様なのに。
ビックリするほど結婚するという実感が無く昨夜もグッスリ眠れたはずが、今になって急に湧き上がってきた緊張感で体調激悪なのに。

 

 

でも、そんなコトはまるで関係なく、いよいよ式が始まっちゃうのである。


 

AM11:00。
着替えが終わり、リハーサルのためにチャペルへ移動。ベストマンかーしゃとブライドメイドねおちゃん(カノジョの親友)を交え、とどこーりなく終了。
ちなみに神父さんはどこの外人さんかと期待してたら、思いっきり内藤剛士似のジャポニィだった。いや別に不満とか無いですけど。

参列者は60名ちょっと

荘厳なオルガンの音が鳴り響く。
さすがにこの年齢になると、こーゆーシチュエーションでこーゆー音楽を聴くのはもう何度も経験している。
いつもと違うのは、自分が一番前の席に座っているという点である。
めっちゃ主役っぽいのである。うわぁチョット待ってー。こんなん嘘や〜。(本番です)

チラと後ろを振り返ってみると、みんな超マジメな顔して席についている。ハンカチで目頭押さえてる人まで居る。
うわぁーーちょっとタイムー。やめてートイレ行かせてー。かなんわー、こんなんマジで結婚式みたいやんか〜〜〜〜。(結婚式です)

 

そんな参列者の中に、頭一つ抜きん出てるShunさんのヤクザ顔が見えると何故だかとても安心した。

 

 

 

 

神父さんに促されて席を離れ、講壇に立つ。

奥の扉が開く。

選手入場。赤コーナーもとい、新婦入場。

 

腕を組んだ義父とカノジョが、バージンロードを静々と歩み寄ってくる。

こんなとき、普通なら花婿は純白のドレスに包まれた愛する妻の姿に目を細めているのだろう。
しかしTACはしばらく彼らを先導するフラワーガールのミキの姿に釘付けだった。

お前・・・目立ち過ぎ。つか、どこで覚えたそんな仕草??

幼い子がフラワーガールを任された場合、大抵「花咲か爺さん」のように元気良くパッパパッパ撒き散らす姿を想像する。
ミキの撒き方は違う意味で目立ちまくり。なんか艶かしいのである。
まず花を手に取り、肩の高さまで挙げる→周囲に軽く目配せ(しかもちょっと微笑み気味)→手の位置はそのままにハラハラとこぼれ落ちる花。

4歳のガキの動きとは思えん。

 

もうTAC、笑いをこらえるのに必死。
いかん。こんなシチュエーションで笑うわけにはいかん。なんとか気を紛らわせねば。

後ろの二人に意識を集中する。
目に見えて歩を合わせるのに必死。お義父さんドレス踏みまくり。そら踏むっちゅーねん。
ヤバい。このままじゃマジで噴出してしまう。気を紛らせろ。脳内BGM再生開始。

♪ぶんぶんぱっ
   ぶんぶんぱっ

    うぃ〜うぇ〜うぃ〜うぇ〜ろっきゅー♪

 

 

 

 

自爆しそうになる。

 

 

 

 

えー、正直申し上げてこの先のことはよく覚えてません。

リハーサルでやったことを忠実にトレースしたつもりですが、頭の中は真っ白で余計なボケかまさぬよう心のスイッチも切ってあったので、感動も感想もありません。
なんか賛美歌かなんかを歌ったよーな気がします。
誓約とか記帳とかもしたっぽいです。
きっ、
ち、ちっ、チスとかしたっけね、ウンしたみたい。

カノジョお手製リングピロー

指輪の交換も無事すませました。
「当日入らんかったらどうしよう」と心配してましたが、なんとか指がタコヤキになる事態は避けました。

「痛い・・・っ、もっと優しく入れて」「ご、ごめん。初めてなんだ」

 


全員集合写真も撮り終え、次は披露宴である。マジっすか。

和装に着替えてスタンバイ。
カノジョの着替えが終わるまでに時間があったので、ふと親族控え室に立ち寄ったら相変わらずガキどもにたかられる。こっちが袴姿だろーが自分らがオメカシしてよーが関係なくへばりつく。行くんぢゃなかった。

そして午後1時。開宴。

 

当初、TAC側の参列者がほとんどいない事から人数もせいぜい50人前後だと思って、実はもっと小さい会場を予約していた。
しかし最終的には60名を超えそうだったので急遽広い会場に変更したのだ。
披露宴は岐阜でももう一回やる事になっているので、可能な限り予算は詰めたかったが完全にアテが外れた。

ちなみに北海道の結婚披露宴は祝儀ナシの完全会費制が一般的。
参列者は受付で一律同額の会費を払っていただく。その際に、例の「ドレス色当てクイズ」の投票もしてもらった。

お手製投票箱

右端がやよいさん正装してもマフィアにしか見えないShunさん

 

 

新郎新婦にうじょー。

場内割れんばかりの拍手の中、宮地佑紀生(東海地方の一部の方だけ判ってくれればイイです)そっくりなスタッフに先導されてまずTACが。続いてカノジョが義母と共に入場する。
高砂に着き、司会からのプロフィール紹介後、新郎から会場の皆様に挨拶。ハイ、何を言ったかまるで覚えてません。

 

花束贈呈。
カノジョの従兄妹の子らから花束を貰い、代わりにカノジョが用意したプレゼントを渡す。気のせいかポリシーなのかニコリともしない彼らに「俺ひょっとして結婚相手として認められてないんちゃう?」と不安になる。

・・・いいかい君たち、そのプレゼントはね。
最初、カノジョが大昔に買ってた少女漫画雑誌の付録懸賞品を入れるつもりだったのを俺が慌てて止めたんだよ☆(ある意味希少品には違いないが)

 

祝電披露。TAC早くも疲労。韻を踏んでみました。
続いてカノジョの叔父さんの音頭のもと、乾杯。
ようやく祝宴が始まる。

――さて、本日のメニウ。

魚介のタルタル仕立てイタリアンプロシュートサラダ添え、お造り、お吸い物、オマールムースとオマール海老のポアレ・アメリカンクリームソース、お口直しのソルべ、牛ヒレ肉のステーキ・マデラソースと季節の茸のクリームソース、本日のおすすめデザート・・・

メニューカードを見て、二人そろって溜息をつく。
美味しそうだねぇ・・・そうかー・・・これが今日俺たちが食えない食事かぁ〜。
(実際、ほとんど食う時間は無かった)

 

 

 

 

しばしの歓談後、ここでお色直しのために一旦退席する。
次はお約束のウェディングケーキ入刀が待っている。

 


衣裳室にて。
一回目のお色直しは、式の時に着た洋装に再度着替える。
なんか順序が非効率っぽいよーな気がするが、こーゆーモンなのか。

さっさと着替えが済んだTAC、カノジョの着替えが終わるのを後ろで見守りながら待つ。

カノジョ
「このドレスさ〜、実は今日ちょっとキツいのよね〜」
TAC
「あん??つい2日目に前撮りで着たばっかだぞ?
カノジョ
「昨夜とか暴飲暴食したしねぇ」

 

 

・・・通常、世の女性は。
自らが結婚するこの時期だけは死ぬ気でダイエットするという。
一生に一度、最高にキレイでいなければならない日だから覚悟が違うのである。

 


生涯で一番ヤセてるはずのこの時期に、順調に太ってんぢゃねぇ。

 

 

 

――入場。


ウェディングケーキ入刀。

今回のウェディングケーキは、カノジョが以前勤めていた「きのとや」という有名製菓店に特注で用意してもらったもの。全部ホンモノで食える。
中央に座す二人の名前をデコったハート型ホワイトチョコの周りを、イチゴや桃などの果物が取り囲んでいる。

我らがお色直しの間――会場ではお子様たちの手によって、このケーキに更なるデコレーションが行われていた。
用意されている具財は、3日前にカノジョと買出しに行ったイチゴ、雪だるま型マシマロ、お化け型スナックetc・・・である。

つまみ食いしてる奴ハケーン

 

 

さあ、良い子のみんなが祝福の気持ちをいっぱい盛り付けてくれたケーキは、どうなってるのかな?

 

 

←デコ前

 

 

 

←デコ後

 

・・・スノーマンsに踏み拉かれて名前も何も見えないんですけど?

入刀は無事に終わりました

この後、「ファーストバイト」なるものがあった。
TACは最初聞いた時「え?機関紙の挿絵描きですけど」と素で答えたように、それが何か知らなかったわけだが。

よーするにケーキカットの後、新郎新婦がお互いに一口づつケーキを食べさせる行為のことらしい。

まずTACからカノジョへ。その後、カノジョからTACへ。
まあ予想していたことだが、カノジョはしっかり「お化けスナック」がトッピングされてる部分を集中的に取り出してTACの口に押し込む。
うん、甘ーいクリームの味にしっかりとした塩味が効いてて実に美味しくないね

 

・・・この混沌としたケーキは後に切り分けられ、気の毒なことに会場の皆さんにも振舞われました。

 

 

 

友人代表挨拶。
TAC側からはつーくん。
出会いは小学校入学当時。TACが教室のロッカーにケツだけ突っ込んで自称「ヤドカリごっこ」というどうにも救いようが無い超個人的遊戯に興じていた時、隣で同じようにヤドカリってたデブが彼だ。もう30年以上の付き合いがある腐れ縁。かけがえのない大親友だ。
学生時代は女っ気がこれっぽっちも無かったのに、TACの紹介で知り合ったとある女の子と誰よりも早く結婚し、既に3児の父である。

 

カノジョ側からはU部さん。
「きのとや」時代の大先輩で、親子ほど歳が離れてるにも関わらずまるで友人のように親しく付き合ってきた人。カノジョが最も尊敬する人の一人である。
にこやかに挨拶を始めるU部さん。しかし、開始後まもなく言葉が詰まって涙声になり、その先が進まなくなる。
会場のみんなも貰い泣き。隣でカノジョも貰い泣き。
 

どちらの挨拶も心から祝福してくれているのがよくわかり、感動した。

 

 

余興。
打ち合わせの時、一番気になっていたのがこの余興だった。
今回の場合、遠方から来るためリハーサルやネタ合わせなど望むべくも無いTAC側の親族や友人には、基本的に頼めない。
となるとカノジョ側にお願いするしかないのだが、やってくれるよーな人材などいるだろうか。

カノジョ
「あ、余興のことは心配なし。アテがあるから任して」
TAC
「マジ??やってくれる人がいるんだ?」
カノジョ
「叔母さん。ウチの一族間では恒例なの。彼女のヒゲダンス
TAC
「ヒゲ・・・!」

 

その単語、20年ぶりくらいに聞きました。・・・平成だぞ。

 

人読んで「真昼の200W」
カノジョ一族が誇る秘密兵器コンビ、M叔母さん&N叔母さんの登場です。

まさかホントにやるとは思わなかったわけだが。

TACの義弟どもまで巻き込んでもう大騒ぎ。笑いっぱなし。

ピーナッツを口で受け取る例のアレ。

最後は両家の父親まで引きずり出されました。
ウチの親父はまあヨシとして、お義父さんが・・・・・・・おいたわしや。

 

 

 

最後のお色直しに、再度退場する。


衣裳室にて、カノジョが完成するのを待つ。
ドレス色当てクイズの正解である、緑の”水底ドザエモン揺らめき髪”ドレスを殖装中である。

これからスターファンタジア(キャンドルサービスの代わり)ドレス色当てクイズ当選者の発表、そして両親への記念品贈呈へと続く。
その最後にカノジョからの両親への手紙が読まれる予定である。

 

御存知の通り、カノジョは男よりもオトコらしい性格である。
よく結婚式で見られる「涙で声が詰まって手紙が読めない」というようなシーンなど、カノジョには無縁だと思っていた。最初は。

しかし意外にもドラマや映画の安っぽい感動シーンとかで涙ダーダーだったり、さっきの友人代表挨拶でも貰い泣きしたりと、実はけっこー涙腺ユルユルであることが判明。
・・・こりゃ最後の手紙もアブネェなぁ。ハンカチ用意しといた方が良さそうだなぁ。イザという時にサッとハンカチを差し出す新郎ってポイント高いよなぁ。
でも俺、小学校5年生くらいからずっとハンカチ持ち歩いたこと無いんだよなぁ。

 

廊下でスレ違ったスタッフのおばちゃんを呼び止め、こっそりお願いする。

TAC
「すみません、涙を拭けるよーなハンカチとか貸してもらえませんか?」
おばちゃん
「いいですよ。こんなんしかありませんけど、これで良ければ」

 

 

と、言いつつ渡されたのはガーゼ。

 

 

・・・・・・・・まあ、いいかコレで。
少なくとも吸水性はバッチリだ。

 

 

最後の入場。


スターファンタジア。まあ、いわゆる「キャンドルサービス」なのだが。

各テーブルの中央のグラスに入ってるA液に、TACが持つボトルからB液を注ぐとルミノール反応で青く光るのだ。きっとA液かB液のどっちかは誰かの血だ。(ナイナイ
松さんの結婚式でもコレだったが、最近では主流なのかな?

一つ一つのテーブルに注いで回る。
その度にテーブルの皆さんから惜しみない拍手と祝福の言葉を受ける。シャッター切られまくる。
幸せと感謝の気持ちでいっぱいなのだが、

TACはボトルのB液が全部のテーブル分持つかどうかで頭がいっぱいだった。
だって渡された時点であまり量入ってなくて、足りるかどうかヒヤヒヤだったんだもの。

 

 

なんとか全テーブルを回り、高砂へ。
ここでボトルを長めのチャッカマンに持ち替え、最後の特大キャンドルに点火する。
その瞬間、背後からブワッと飛び出すシャボン玉の嵐。

しかし、ここで感動するどころか慌てふためくカノジョ。

ギョギョッ!?

・・・実はこのシャボン玉、ホテルからのサービスだったらしい。
しかし当然それを知らないカノジョは、キャンセルしたはずのシャボン玉オプションが手違いで組み込まれたのだと思い、

(うわ何コレしゃぼん玉頼んでねーじゃんマジかよ何勝手に入れてんだよ金かかっちゃうじゃんヤメてよどーゆー事よ要らないって言ったじゃんよヤベェよ絶対払わねぇぞ金ゴルァ)

といった内容の葛藤を笑顔の裏でリフレインしてたらしい・・・大切な感動シーンなのに。
態度がデカい割に意外と懐は狭い

 

 

この後、ドレス色当てクイズの当選者発表と続く。

正解の緑の投票箱の中から何枚か名札を抜き取り、粗品進呈。
身内では義弟が。他にはカノジョの親戚であるマルコメ4兄弟のK田さんレーサーH田さん、あとカノジョ短大時代の光画部の先輩であるヤスナ部長カクコ副部長(裏の提督)がゲッツ。
喜んでくれたかどうかはは知らぬ。

 

 

 

そしてついに最後の――両親への記念品贈呈の時がやってきた。

カノジョが選んでくれた贈り物は「ネーム・イン・ポエム」というもの。
それぞれの両親の名前の漢字を上手く文の中に配して、当人たちへの気持ちを綴ったメッセージボードだ。クリアガラスにサンドブラストで彫り込まれている。

そして、カノジョからの両親への手紙。

 

 

 

 

 

 

――カノジョは、ちゃんと気付いていた。

 

 

いつも顔を合わせる毎にケンカばかりしていた父親・・・・・しかし彼が、どれほど大きな愛で自分を見守っていてくれたのかを。

大事な娘だから心配。ゆえに何かと小言が増える父。
それについ反抗的な言葉を返してしまう我の強い自分。
繰り返される口論とすれ違い続ける想い。

素直になれず、引くことを知らないお互いの性分。
そう、二人は鏡に向かい合うかのようにそっくりだった。確かに同じ血と、心を宿していた。
カノジョはちゃんと気付いていたのだ。

今まで生意気言ってごめんなさい。そして今まで守ってくれてありがとう。
二人から受け継いだものは、岐阜に行っても忘れない。離れていても、私は二人の娘―――

 

 

 

 

・・・涙で何度も途切れがちだったが、なんとか最後まで読み通せたようだ。
途中でそっと渡したガーゼも殆ど役に立たず。床はカノジョの流した涙の洪水で腰の辺りまで浸水していた。
借りた衣装を後で乾かすのが大変だった。

 

 

 

 

トリはTAC父の締めの言葉で、ようやく披露宴は終わった。

参列してくださった皆さん、本当にありがとうございました!
幸せになります。

 

 


 

 

 

 

 

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