23日(土) サンセットクルーズ・ブルジョアパーティ
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出張もとうとう六日目。
やっぱり暑い暑い暑い!
今日は「みなと祭り」の準備で朝から外が賑やかである。町の人たちが外灯に電線張って提灯をぶら下げる作業をしている。
夜にはコンサートやら出店やらいろいろあるらしい。
TACにとっても境港最後の晩餐なので、文庫の2階の空き部屋を貸し切って黒目さんお手製手打ち蕎麦とLUNAちゃんが手配してくれたマグロで祭りの夜を豪勢に飲むぞ〜〜〜〜!・・・という話が実はあったのだが諸処の事情でお流れとなり、普通に飲みに行くことになりそうだ。
その代わりというわけではないのだが、黒目さんと高橋さんが知人に招待されている自家用クルーザーによる船上ミニパーティに
飛び入りで同伴させてもらえることになった。なんて豪奢なオプションだ。
実は今日、福山からSYOさんがやって来る。彼も一緒に参加させてもらえる予定
。
以前初めて境港でSYOさんに会った時も、たまたまTACの傍にいたというだけで黒目さんに招待された秘密の食事会(蕎麦とスッポン鍋)にちゃっかり彼は参加している。
いつもタイミングよく現れてめざとく旨いモンにありつく彼の優秀な嗅覚はまさに天性のものだろう。
クルージングは16時くらいからということで、それまでは仕事することにする。
もっともこちらの仕事はほぼ完成なので、あとは最後のチェックのみだ。
・・・まあ、こんなモンだろ
最後のシメとして人魂を一つ追加し、めでたく御仕事一丁あがり〜☆である。
ヘタクソなりに頑張って描きました!完成品は是非「水木しげる文庫」に実際足を運んでジックリ観てくださいね。
よーく探さないと見つからない「呼子」や、さりげなく(と言うほどでもないが)背景に隠された「TAC」の文字を探してみてほしいな。
その後はひたすらマスターらの仕事のお手伝い。
SYOさんと黒目さんも一緒になって、巨木の漆喰をぬりぬりぬり・・・・。タダ働きだけどぬりぬりぬり・・・。
結局「一週間で出来るかなレース」はTeamTAC(一人だが)が圧倒的独走状態で勝利した。
Team1000は未だ最終コーナーに姿を現していない。
15時をまわった。時間だ。
黒目さん
「さ・・・、ぼちぼち行きましょうか」
TAC&SYO
「はぁ〜〜〜い☆」
仕事を続けるマスターと入道さんを置いていくことに少なからず罪悪感を感じながらもスキップ♪で黒目さんの車に乗り込む。(ヲイ)
行き先は米子港。道中、黒目さんから水木ロードにまつわる様々な苦労話を聞かせてもらった。
・・・やっぱり、町の皆を一つにして大きなプロジェクトを動かすと言う事は並大抵の努力では出来ないことなのだ。
今でこそ皆に愛される水木ロード。その発展の裏には数多の偏見や誤解との戦いがあり、幾度とない挫折の果てに多くの汗と涙が流されたのだろう。
私に出来る事は限られている。でもその出来る範囲でなんとか、これからも力になっていけたらな・・・と思った。
全国からこの地に集まってくる、妖怪を愛する人たちの為に。
この地を愛してやまない、たくさんの人たちとたくさんの妖怪たちの為に。
米子港着。
停泊しているクルーザーに向かう。他のメンツは既に集まっているようだ。
岐阜の山猿には一生縁のない物体
メンツは我々3人の他に、高橋さんと彼の会社の部下の方々3名、クルーザーのオーナーA氏、その知人で名古屋からのお客さん2名・・・の、合計10名。
食料・飲料などのクーラーボックスを皆で積み込み、いざ出航!
のどかなエンジン音と共に、クルーザーはゆっくりと米子港から滑り出した。
最高の天気
うわーーーーー、めっさ気持ちエエ〜〜〜〜〜!
でら気持ちエエでかんわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜☆(名古屋弁)
クルーザーのフロントガラス真ん前に陣取ったTAC。心地良い潮風を全身に受け、早くも気分は海の男。自分が仕事で鳥取に来ていることを綺麗サッパリ忘れ去る。
御約束としてSYOさんと二人で船の先端に立ち「タイタニックごっこ」しようかと思ったが、TACが前になった場合そのまま笑顔で突き落とされる不安を拭い去ることが出来ず、また後ろになった場合も彼の胴にまわすには腕の長さが足りないのでヤメた。
すっかりカヤマユーゾー気分のSYOさん
今回のクルージングコースは、まず中海をテキトーに遊覧してから大橋川経由で松江の宍道湖へ抜け、その湖上で夕陽を眺めつつ船上パーティー・・・という予定。
4級船舶免許は、メンツのうち誰か一人が持っていれば他のメンツも操縦しても良いことになっている。
中海内では基本的にどう行こうが自由なので、高橋さんに「操縦させてもらいなさいよ」と勧められ禿しく心惹かれるが、こんな広い場所でクルーザーのハンドル握ったらエンドルフィンとアドレナリン出っぱなしで何か危険なスイッチが入ってしまいそうな自分を容易に想像できたので謹んで辞退。
しばらく名古屋から来たオジサマの運転で湖上をスッ飛ばすクルーザー。
中海を北上すると、鳥取と島根の江島(通称”大根島”)を結ぶ橋があり、一部が跳ね橋になっている。(中浦水門)
ここはレーダーで船舶の接近を感知すると、水門の電光掲示板に案内信号が点灯する。緑の「↑」のマークが出たら跳ね橋が上がり、通過の許可がおりるのだ。
本当は予定に無かったらしいが、クルーザーが接近しすぎた為に水門が開いてしまった(らしい)。せっかくなので跳ね橋を通過させてもらい、運河のような狭い水路を進んで境港の方まで足を伸ばすことにした。
水門を抜ける時はまるで国境警備隊の目を盗んで亡命しているかのよーな軽い緊張感を味わった。頭上の管理塔からいつ機銃を掃射されるかとヒヤヒヤした。(ココは日本です)
中海に戻り、大橋川へ突入。
どっかの高校のレガッタクラブが練習している脇を、ソニックブームのような大波で迷惑かけながら進む。
新大橋、松江大橋、宍道湖大橋をくぐり抜けると一気に視界がひらけた。宍道湖である。
適当な場所でクルーザーを停め、錨を下ろす。
エンジンを止めると動いてる時には気にならなかった波のうねりを感じる。やば。海ナシ県民であるTACさんはフツーに考えて日常で船酔いする機会があまりないというかありえないのでその耐性は保証できない。
酔ったらアウチだ。船の上じゃ逃げ場はない。近くを見ないで遠くに視線を(必死)
この後、TACは船酔いに対する耐性が実は備わっていたことが判明するが、会話中も目線は相手を突き抜けて遥か遠くを泳いでいた。
クルーザー後部のデッキにテーブルが置かれ、各種オードブルや寿司、ビール、ワインなどが並ぶ。全員が着座して簡単な自己紹介のあと乾杯。
さあ、宍道湖の遥か水平線に沈む夕陽を優雅に愛でながら宴〜♪と、一同太陽を見上げる。
高。
・・・考えてみれば当たり前である。一年で一番日が長いこの時期、夕陽を拝むには時間的に全然早過ぎだ。
しょうがないので先にメシだけ食っちまおう。
まいう〜〜♪
大変楽しい時間を過ごさせてもらった。特に今この時間にも一生懸命働いているであろうマスターと入道さんのことを思うと、申し訳なくてビールが進む進む☆(←外道)
クルーザーとギターはどうやらお約束のセットであるらしく、オーナーのAさんが弾きながら何曲か歌ってくれた。ほんとカヤマユーゾーな空間である。「お金持ち」という生き物の生態を疑似体験でき、いい勉強になった。
このブルジョアな気分をどうしても誰かに自慢したくて、何人かの友人に写メールを送ってみる。
次々と届く、「呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪」や「沈んでしまへ」や「TACさん、ダイブ!ダイブ!!」などの嫉妬に満ちた返信メール。これがまた実に愉快。(←本物の外道)
帰る頃には夕陽もバッチリ拝む事ができたYO!
とっぷり日も暮れた頃、大満足で帰途につく。
黒目さんの車で境港に戻ってくると、たくさんの人が集まっている場所に差し掛かる。みなと祭りの特設会場のようだ。祭りは既に始っている。
「マスターたち来てるかな?」
電話をかけてみるとまだ現場で仕事をしていた。ホントお疲れ様です・・・げふっ。(満腹)
黒目さんと別れ、仕事を片付けたマスターらとブッキィ&LUNAちゃんとも合流。
改めて皆で会場に行くが、ここで「夕食」とるのはちょっと無理があると判断(つか、まだ食う気かキサマ)。会場に来ていたシゲ子おばちゃんたちと一緒に引き返す。
今夜も米子のどっかへ飲みに行こう。最後の夜だ。(つか、まだ飲む気かキサマ)
今夜の酒宴会場は居酒屋「こうりん坊」。
いつものメンツ+SYOさんの6名。ブッキィとLUNAちゃんには皆勤賞を与えねばなるまい。
最後の夜も、実に楽しく和やかに飲んだくれた。
ふとした弾みで相方との馴初めを打ち明け合う告白会に発展し、いろいろ面白いエピソードを聞かせてもらった。前の職場で女子社員に手を出した人2名、友人紹介1名、カモフラージュのつもりがいつの間にか本命になっちゃってた2名、某妖怪車が引き合わせてくれた人1名。
それぞれにドラマがある。特に某大人の男性二人は昔けっこうモテてたようで、特に入d(キュッ)くえっっ!!←背後から誰かに絞殺された模様
最後の夜もLUNAちゃんはよく飲んだ。しかしとうとう壊れなかった。(泣)
明日はとうとう帰る日だ。思えばあっという間の一週間だった。
仕事も無事に終え、達成感はあるが・・・・・やっぱり少し寂しい。
24日(日) 片タマのサングラスの奥で
出張七日目。最終日。
全ての荷物を抱え、一週間泊り込んだ部屋を出た。
チェックアウトを済ませ、ホテルの駐車場に停めっぱなしだったスプリンターバンに久しぶりに乗り込む。一週間密閉されてた車内には、まだ微かにシンナーが香っていた。
今日の昼には岐阜へ発つ。・・・おや、ガソリンが無いな。先に給油すませとくか。
ホテルの対面にあるGSでガスチャージ。
ふと助手席を見やる。
一週間前にはそこに座っていた(というか寝てた)カノジョのことを少し思う。
海を越え 空を駆け
来てくれた君にありがとう
海を越え 空を駆け
帰ってしまった君を探してみる
君の温もりを探してみる
丁寧に畳まれた毛布 飲みかけのペットボトル
コンビニのビニール袋
君はもういないけど 姿は見つからないけれど
助手席のシートに手を置いて 目を閉じればホラ
感じるよ 君の体温
感じるよ 君の重ぶにょ
・・・・・。
SYOさんが乗ってきた。
彼の車は境港なので、朝はTACが現地まで乗っけて行くことになっていたのだ。(同じホテルに泊まっていた)
「・・・おはようございます」
苦笑い。そして出発。
今日の境港もいい天気だ。
学校も夏休みに入り、最初の日曜だけあって観光客も子供も多い。
SYOさんと共に文庫内に入る。
一応ツナギに着替えるが、仕事はもうやる事ないのでコンプレッサーや塗料などをダンボールに詰め、ガムテープで念入りに封印する。昨夜みんなで御馳走になる予定だった、LUNAちゃんのお父さんが手配してくれたという大きなマグロの切り身は氷と共に発泡スチロールの箱に詰められ、お土産として頂けることになった。感謝。
・・・これでもう、帰る準備は万端だ。
マスター達は今日も変わらず仕事を開始する。
外の通りでは、みなと祭り二日目ということで盛大にパレードが行なわれている。
地元の子供会や幼稚園児たちが鼓笛隊や踊りなど交えながら元気に行進していた。夜は花火も上がるらしい。
・・・残念ながら、その花火を観る事は出来ないのだが。
パレード見物がてら、隣の鬼太郎茶屋に土産を買いに行く。
ここには本当に御世話になった。帰る前に一言お別れの挨拶をしたかったからだ。
荒木のお婆ちゃんは鬼太郎音頭保存会としてパレードに参加中ということでシゲ子おばちゃん一人が店を切り盛りしていた。
いくつかの土産を買い、精算しようとすると、またもおばちゃんが「お金はいいよいいよ」と言ってきた。そういうワケにはいかない。
無理にでも払おうとすると、「それじゃ・・・」と土産のお菓子を二箱サービスしてくれた。
そして荒木のお婆ちゃんが作詞したという鬼太郎音頭のCDを「これ、聴いてやって」と
袋に入れてくれた。
ありがとう。本当にありがとう。・・・愛してるぜ、シゲ子おばちゃん。
記念の2ショット
パレードもそろそろ最後尾の団体が通過する頃。そう、トリを飾るは鬼太郎音頭保存会である。
荒木おばあちゃんの浴衣姿も見れた。これからもずっと元気でいてほしいものである。
このクソ暑い最中、着ぐるみで踊っていた観光協会の皆さんもお疲れ様ですた。
期間中、入道さんの手によって見事新品のよーに塗装された実は中古の本棚。
その背面に皆で記念の寄せ書きをすることにした。
この水木しげる文庫の内装製作に何らかの形で携わった漢たちの存在を、後世に残す刻名の碑だ。
TACのはともかく・・・マスターのなびウサ、ブッキィ狐、そして他ではまず見られないSYOさんと入道さんによる直筆の似顔絵。これだけでもかなりレアなコラボレートだと思う。
ちなみに左下の水木サインは黒目さんのものだ。さすが付き合い永いだけあってその再現度はカンペキ。
・・・全国の、水木センセのサインを所有している皆さん。
そのうちの半分はおそらく黒目さんがバイトで(ry
最後に、完成した「千年の森」を背景に皆で記念写真を撮った。
マスター、入道さん、黒目さん、荒木のお婆ちゃん、ブッキィ、SYOさん・・・愛すべき妖怪たちと共に。
SYO
「じゃ・・・そろそろ行きましょうか」
TAC
「そうですね」
時間だ。
とうとうこの時がきてしまった。
一週間共に戦った戦友とのお別れの時が。
・・・聖地を去る時が。
一緒に帰るSYOさんが自分の車を停めてある市営駐車場まで歩いていく。
その間にTACもスプリンターバンを駐車場から移動させ、文庫前に横付けした。最後の荷物を積み終える。
マスターと入道さんが見送りに出てくれた。
どちらからともなく差し出された手と手が、固く結ばれる。
マスター、入道さんと交互に握手を交わした。
「本当に・・・本当に御世話になりましたっ!」
月並みだが、それ以上の言葉は出てこなかった。いや、きっと・・・言葉は必要なかった。
最後に深々と頭を下げたとき、「あ、ヤバ」と思った。
以前、たった2日の滞在だったにもかかわらず別れの時には目頭が熱くなってしまったほど最近のTACは涙腺が緩い。今回は一週間も一緒だったので当然これも予想できてたはずなのに。
涙が溢れてきた。
コレは堪えられそうになかった。
慌てて車に乗り込みサングラスをかけた時、茶屋からシゲ子おばちゃんが走ってくる姿が見えた。
「握手!最後に握手!」
・・・はは・・・まったくおばちゃんてば最後までけたたましいなぁ・・・
ウィンドウを下げ、その手を握る。
おばちゃん
「アンタ、ちゃんと気をつけて帰ンなよ!またおいでよ!」
TAC
「おばちゃんも・・・お元気で」
ここまでが限界だった。振り切るように車を出す。
前方のSYOさんの車に次いでロードから出る角を曲がると、バックミラーの中でいつまでも手を振り続ける3人の姿もやがて見えなくなった。
少し走ってから、ふと視界の違和感に気付いた。
サングラスを外してみて、その原因を知る。すっかり忘れていたが、この安物のサングラスは行きの途中でフレームの一部にヒビが入り、片方のタマが抜け落ちたままだったのだ。
さっきは慌ててかけたので気付いてなかった。
やれやれ・・・涙隠すためにサングラスしたつもりが、結局片目だけは隠せてなかったってことか・・・
片タマのサングラスの奥で、濡れていた赤い目とマヌケなツラを、おばちゃんに見られちゃったよ。
ちぇっ、恥ずかしいなあ。
でも、また来ます。
マスターも入道さんもブッキィもLUNAちゃんも黒目さんも高橋さんもシゲ子おばちゃんも荒木のお婆ちゃんもカヲルさんも京久野さんもAさんも。その他の境港のみんなみんな、ありがとう。
SYOさん、姐さん、はっちぃ、そして・・・カノジョ。
応援に来てくれてありがとう。
オレ、何か残せただろうか。
大好きな妖怪の町とみんなの為に、何か残せただろうか。
残せたらいいな、と思う。これからも。
燦々と降り注ぐ陽光の下、スプリンターバンは走り続ける。
暑い。鳥取の夏は、まだまだ先が長そうだ。
町を抜けた頃、また視界に違和感。
でもそれがもう片タマのサングラスのせいじゃない事は、わかっていた。
一週間鳥取出張エアブラシレポート
「千年の森」計画
糸冬
開店祝いに贈った掛軸の「ぬらりひょん」
完成した二本の巨木の狭間で
「水木しげる文庫」の未来を見守っている