出動準備


 

その後、幾度となく吉川さんとメールや電話のやり取りがあったのだが、当日までの段取りが変更に次ぐ変更でなかなか大変だった。

【百鬼夜号陸送の件】
百鬼夜号は、先方の知り合いが勤める岐阜の某工場と広島を往復している運送トラックに載せていくという。積載車ではなくフツーのトラックである。大丈夫か。

吉川
「運転手の人は車の搬送も慣れてますから。ちゃんと固定していきますし。大丈夫ですよー」
TAC
「はぁ・・・まあ、それなら。でも大型トラックのあの高い荷台にどうやって百鬼夜号を載せるんでしょう?」
吉川
「そこで相談なんですが、近くにフォークリフト貸してくれる場所ありませんかねー?」
TAC 
「ええ〜?」

車をフォークリフトで積むなんてスクラップ屋さんでしか見たことないシーンだ。
とりあえず工場の近所でレーザー加工業を営む同級生に缶ビール持ってお願いしに行く。 快くOKを貰えたが、一つ問題があった。
「ウチのフォーク、2.5tだから軽くらいは大丈夫なんだけど・・・爪が短いんだよねぇ」
大問題である。
確かに見てみると1メートルちょっとくらいしかない。フォークリフトで車をサイドから持ち上げる場合、爪は最低でも車幅分の長さがないと危険である。
「あ、兄貴が延長用の爪を持ってたはず」
彼の兄は消防の同期で顔見知りだ。さっそく連絡し、トラックで爪を借りに行く。
鉄の塊である2本の爪はとても重かった。

吉川
「岐阜工場からそちらに引き取りに行く都合のいい便がありません。申し訳ないんですけど春日井工場(愛知県)の方に持ってきてくれませんかね〜?
TAC
「カンベンしてください(泣)
吉川
朝6時くらいに引き取りに行っても大丈夫ですかねー?」
TAC
「お金払うからカンベンしてください(大泣)

結局、25日の昼に福井から広島へ帰る便にこちらへ寄ってもらうことで話は決まった。都合3回は運転手の変更があった。

・・・ちなみに誤解なきよう断っておくが、吉川さんは本当にあらゆる手を尽くしてギリギリまで最善の方法を模索してくれたのである
あとで知ったのだが、彼は
もののけ祭りの実行委員長だった。一番忙しい時期に、TACのワガママにとことん付き合ってくれた吉川さんには心から感謝している。

 

 

【TACさん陸送の件】
さて今度は自分がどうやって広島に行くか、である。
当初先方から提案されたのは、名古屋から参加する数名のメンバーが乗ることになってるマイクロバスに便乗させてもらうという方法だった。タダならそれに越した事はない。ありがたく御一緒させてもらう気マンマンでいたら。

吉川
「すんませーん。一定人数集まらなかったのでバスなくなりました。すみませんけど夜行バスで来て頂けませんかね〜?」
TAC
「まあ、そういう事情なら・・・。ところで三次に行ける夜行バスって何時発のがあるんでしょうか」
吉川
「名古屋駅23:30発のがありますねー。翌朝の6時に三次駅着。一日にこの一本しかありません
TAC
「帰りは?」
吉川
「三次駅23:45発のがあります。翌朝の6時に名古屋駅着。コレ一本しかありませーん
TAC
「えええ〜〜〜〜?」

月曜の早朝に名古屋駅着→そのまま仕事である。車の中では殆ど寝ることができないTACにとっては結構キツいスケジュールだ。
しかし贅沢も言っていられない。この一本しかないのだからコレに乗るしかないのである。
パソコンからチケット予約をし、その日のうちにコンビニ決済した。

・・・念のためもう一度誤解なきよう断っておくが、吉川さんは本当にあらゆる手を尽くして(以下略)

 

 

【百鬼夜行パレードの件】
当日のスケジュールは、まず午前10時から三次歴史民俗資料館に設営された「もののけ村」にて開会式典およびバザーなど。
午後3時から三次文化会館で講談、アフレコショーがあり、夕方6時から百鬼夜行パレード。夜には平太郎体験登山へと続く。

TACのメインの仕事は百鬼夜行パレードの先導。
百鬼夜号に乗り、妖怪扮装した人々の行列を従えて文化会館からもののけ村までの道のりを徐行運転すればいいのだ。簡単なものだ。
しかし。

吉川
「ぜひTACさんも妖怪扮装してくださいな」
TAC 
「まあ去年八日市で使った狂骨でよければ・・・衣装持って行きますけど」
吉川
「上等です〜。じゃ、お願いしますね〜」

電話を切ってからふと気付く。
・・・ちょっと待て。
いや、とてもたくさん待て。
オレ、百鬼夜号の運転するんじゃなかったっけ?あの狂子さんのカッコで??

季節は夏真っ盛り(外気温高め)
百鬼夜号クーラー効きません(内気温も高め)
狂子さん衣装はとっても暑いです。(ついでに体温まで高め)
しかも視界が悪いです。(普通に危険)

 

・・・・・死ぬかもしんない。
ちょっとマジに思いました。

最後にもう一度誤解なきよう断っておくが、吉川さ(以下略)

 

 

と、とにかく暑いのは我慢するしかトホホホないとしてもとりあえず「視界」の問題だけは何とかしなくちゃ。事故ッたらシャレにならん。
というわけで急遽、狂子さんマスクのちょっとした改造をすることにした。せざるをえなくなった。


まず視界の悪さの原因は目立たないように小さく作りすぎた覗き穴に他ならない。
今回は眼窩いっぱいに穴を切り拡げた。ただ、そのままでは中から覗く目が露骨に見えてしまってカッコ悪い。
そこで登場するのが例のサングラスである。

そう、境港から帰るときに片方のタマが抜けたあのサングラス。
どうせもうサングラスとして使用する事は出来ないのでバラバラに分解し、両方のタマを抜く。

そのタマをマスクの裏から切り抜いた眼窩に両面テープとガムテープで貼り付ける。(→)
これなら表から目は見えないし、視界もサングラスをかけてる状態とかわらないのでバッチリだ。

 

 

 

 

 

・・・まあ、ちょっと難を言えば。

(←)サングラスのタマがやたら光を反射させるため、まるで少女漫画のようにキラキラした瞳の狂子さんになってしまった事かな。

おかげで予定になかった不気味さが増した。

 

 

サイズがタイト過ぎる為に脱着が一苦労だった点を反省し、後頭部も大胆にカット。
輪ゴムで繋いでフリーサイズ仕様にした。

 

 

これで扮装の準備も完了だ。

聞くところによると、今回福山からSYOさんDACK2姐さんmayちゃんが応援に駆けつけてくれるらしい。ちょっと遅れてくまはっつぁんも来てくれるらしい。

で、SYOさんと姐さんは妖怪扮装でパレードに参加決定。

ウホッ、こりゃ楽しみだ☆

 



百鬼夜号搬送

 

 

25日。
ほぼ予定通りの時刻、ウチの会社の前に一台の大型トラックが横付けした。

運ちゃん
「こんにちわー。車を引き取りにうわなんじゃこらまた」
TAC
「はじめまして。よろしくお願いします。初めてなんで優しくしてください

百鬼夜号、トラックへの積載開始である。

 

借りてきたフォークリフトを百鬼夜号のサイドにつける。
借りてきた延長用の爪をフォークリフトの前に運ぶ。
装着。

「ガキンッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・入らない。(血の涙)

 

 

 

ひいいいぃいぃいいいぃいぃぃいぃいぃいいぃいい〜〜〜〜〜〜

うっそーーーマジ?!装着不可?愛撫が足りなかった?!ローションないとダメ?!(パニクってます)

こんなクソ暑いのに、TACさんも運ちゃんも顔が真っ青。まさかこんな事態は予想してなかった。
そりゃ確認しなかったワタシも悪ぅござんすよ。でもね。フォークと爪を貸してくれた彼らすら知らなかったこの事実。どーして純粋無垢なTACさんが持ち主の言う事を疑えるだろうか。

んなこたどーでもいい。

延長爪は使えない。この短い爪のフォークリフトでどうやって百鬼夜号を持ち上げればいいのか。
なんとか他の方法を模索しなければならない。

 

 

運ちゃん
「・・・一か八か・・・アレでやってみるか」

イチかバチかとかそういう言い方やめてーーーー。めっちゃ不安なんですけど!

運ちゃんが考えたその方法とは・・・
トラックの荷台に置いてあった長めの木材をチェーンブロックでフォークの爪に括り付け、延長爪の代用にするという方法だった。

 

 

 

ひいいいぃいぃいいいぃいぃぃいぃいぃいいぃいい〜〜〜〜

うっそーーーマジ?!無ーー理ーーー!そんなん絶対むーーりーーー!! ママにも見られたことないのにーーーーーーーーっっ!!!(本気でパニクってます)

百鬼夜号の右半分は実質木材だけで支えてる状態である。ギシギシいってるしトラックに載せる途中でボキッとか折れたりしたら百鬼夜号そのままゴロンってひっくり返って地面にありえない角度で墜落うわああああぁあぁああああああああそんな高いネタいらねえぇえぇ〜〜〜〜っっ!!!!

運ちゃん(フォーク操作中)
「・・・・・・イヤな汗かいてきた・・・」

そういう言い方やめてーーー<(ToT)>ーーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとかぶじのりますた。
たっくもうんちゃんもかくじつに5ねんはじゅみょうがちぢまりますた。
おわったあとはまっしろですた。

 

 

 

こうして百鬼夜号はトラックの荷台に揺られ、一足先に三次の地へと旅立っていったのである。

 



TACさん搬送

 

26日夜。

夜の八時ごろ家を出て、
新岐阜駅に車停めて、
名古屋まで電車で行って、
名古屋駅の夜行バス発着場まで歩いて、
11時ごろセレナーデ号に乗った。

 

以上。

 



戦地入り

 


寝ては覚め、覚めては寝てを繰り返し、夜の工事現場で制服はだけたまま涙と雨に濡れて倒れてる女子高生みたくもうすっかりどうにでもしてくれな感じになってるTACを乗せたセレナーデ号は、ほぼ定刻通りに広島のJR三次駅前に停着した。開いた乗降口からでろんと排出されるTAC。

早朝の涼しい空気にちょっと目が覚める。Tシャツでは寒いくらいだ。
・・・もっともこの二日間の天気はイヤんなるくらい良好らしいので、日中しっかり暑くなる事はもうわかっている。
すでに十分疲弊しているが、戦いはこれからだ。

 

バスの到着時刻に合わせ、吉川さんが車で迎えに来てくれていた。

吉川
「はじめましてー。遠路はるばるお疲れ様でした〜」
TAC
「おはよーございますー。遠路はるばるお疲れましたー

吉川さんは眼光鋭いが物腰は大変柔らかいイメージ通りの人だった。
とりあえず吉川さんの家にお邪魔して、スタッフ集合時間の8時までカンタンな打ち合わせと朝食を頂く事になった。

 

吉川さんの奥様が作ってくれた近年稀に見る朝食らしい朝食をゴチソウになる。美味しかった。(TACはここ数年あまりマトモな朝食を摂っていない)
シャワーも勧められたが、とりあえず辞退し洗顔と歯磨きだけさせてもらった。居間で朝食中の吉川さんの娘さんたち(高校生と中学生)に例の赤パンツを見られたら恥ずいからね。(結局穿いてきたのかよ)

 



 

さて、そろそろ8時も近くなったのでイザ出陣である。

百鬼夜号は前日早朝に無事三次に届けられ、吉川さんちの車庫の中に保管されていた。
吉川さんを助手席に乗せ出発する。まず宿泊予定の「鶴鳴館」に寄り、荷物だけ置かせてもらう。

メイン会場である「もののけ村」・・・三次歴史民俗資料館に到着。

 

 

既に集まっているスタッフの皆さんが、テント張ったり机並べたりと会場の設営に忙しく動いていた。

歴史民俗資料館はもともと銀行だった建物をそのまま使用しているらしい。アンティークな造りのなかなか洒落た施設だ。
資料館の敷地内に「朝霧の巫女」の複製原画展や各種展示物のブースが並び、百鬼夜号もココに展示される事になる。
道を挟んだ反対側にある駐車場はフリーマーケットや飲食コーナーなどの広場として開放されていた。

百鬼夜号を展示スペースに停車し、関係諸氏に挨拶。熱烈な歓迎を受ける。
「お待ちしておりました!夢が叶いました!!」
ちょっと気分がイイ。

開会式の10時までしばし時間があるので、勝手に資料館の中を見学させてもらう事にする。
「稲生物怪録展」を一足先にチェック。

 

・・・以前にも少し紹介したが、ここでもう一度「稲生物怪絵巻」について簡単におさらいしておこう。
かつて三次の地で起こったこの奇々怪々な物語は、平太郎という豪胆な少年が遭遇した数々の化け物たちの姿を克明に記した一ヶ月間のドキュメンタリーである。

時は江戸時代、備後の国。
浅野藩士の息子である稲生平太郎
(当時16歳)は、隣家に住む力士あがりの親友・権八と些細な事から口論となり、どちらがより度胸があるか肝試しをする事になった。それはやがて、比熊山の山頂にある「たたり岩」の前で百物語をするという愚行にまで発展する。
その時は何も起こらず拍子抜けして帰った平太郎だったが、その後7月1日から30日までの一ヶ月間、彼の屋敷に毎晩多種多様な化け物怪異が現れ続けた。
しかし怯むことなくそのことごとくを蹴散らした平太郎のもとに最終日、山ン本五郎左衛門と名乗る武士姿の大男が現れる。彼は屋敷を襲った妖怪たちを束ねる魔王だという。
魔王は「勇気ある若者100人ビビらせられるかなキャンペーン」実施中であり、今回86人目に当たる平太郎で 散々手こずった挙句とうとう降参してしまったという。彼は平太郎の豪胆さに敬意を表し、記念に魔王を呼び出せる不思議な「木槌」をプレゼントすると、手下の妖怪たちを従えて帰っていった・・・。

 

一部ちょっと脚色が入ってるが、まあだいたいこんな話である。

この稲生物怪絵巻の特色は、とにかく登場する妖怪のデザインがとっても個性豊かでユニーク。
水木センセが描くようないわゆる「メジャー」なものは一つも無く、天井や門戸いっぱいのデカさがあるババアの大顔面串刺しになった生首の乱舞足と目玉が生えて亀のように動く生きた岩知人の頭を割って中から這い出てくる赤ん坊の行列など、考えたヤツは絶対心が病んでるとしか思えないほどのオリジナリティである。

 

稲生物怪録展は、実は数種類存在する絵巻の中の「堀田本」と「井丸本」と呼ばれる二本の絵巻の比較展示、「たたり岩」「平太郎の部屋」の再現、魔王から贈られた木槌の展示、関連文献の紹介、江戸の町並みジオラマなど、 小規模ながらなかなか見ごたえのある内容だった。

「妖怪お絵描きコーナー」という部屋があったので入ってみた。
中には地元の幼稚園児や小学生が描いたと思われる「ようかい」の絵がたくさん壁に貼ってある。部屋の真ん中のテーブルには画用紙とクレヨンなどが置いてあり、誰もが自由に「おえかき」できるようになっていた。

TAC、まるで当然のように色鉛筆を取って席に着く。
ついついプロ意識が働いて・・・というよりただのガキ心だ。


 

←他のお子様に交じり、平太郎の家に最初に現れた妖怪「一つ目の大男」大人気ないほど気合の入ったクオリティで黙々と描くTAC。
隣のガキが覗き込んで固まっていた。

 

「こんちわ〜」
描いてる最中に予想外の珍客が現れた。
福山オフのときに一緒に遊んだあのムカデ博士トビズくんである。
彼はネットで百鬼夜号が広島に来ていることを知り、わざわざ電車で駆け付けてくれたのである。嬉しい再会だ。
描きながら、しばし歓談。


TAC
「君ももう大学生なんだよな・・・ところでムカデは元気かね」
トビズ
「エサやるの忘れて4匹にまで減りました」
TAC
「・・・・・・そのまま順調に減らして真っ当な道を歩め
トビズ
「そういえば免許ようやく取れました」
TAC
「おめでとう。これで行動範囲が広くなるな」
トビズ
「まさか。やっと教習が終わってもう車に乗らなくて済むと、ホッとしてるんです」
TAC
「何のための免許だキサマ」

大学生になっても彼は相変わらずだった。

 

 

お気に入りの妖怪「土蜘蛛を描くトビズ君。→
顔を描いた時点で既に飽きてしまったらしい。

 


そうこうしてる間にSYOさんから「もうすぐ着きます」メールが届き、程なくして福山妖怪軍団御一行様が到着。
役者が揃ったところで定刻となり、「もののけ祭り」の開会式典が始った。


開会式とはいっても、場所は資料館前の路上。しかもどうやら「車両通行止め」になってるわけ ではないらしく、市長さんや来賓の挨拶中だろーがテープカット中だろーが、お構いナシに目の前をブンブン横切る一般車。
天気はすこぶる良く絶好のイベント日和だったが、集まっている多くの来場者も暑さにちょっとヤラれ気味だ。

 

開会式の後は基本的に自由行動なので、飲食コーナーにて福山の皆と休憩。炎天下でカラアゲとともにカッ喰らうビールの味は最高だった。
会場の真ん中ではスタッフによる昔ながらの紙芝居やマジックなどが子供らの興味深げな視線を集めていた。

 

 

 

 

・・・さて、三次文化会館での講談やアフレコショーまではまだ4時間以上ある。
昼食も兼ねて三次の観光をすることにし、とりあえずSYOさんの車で会場を後にした。

行き先は「三次ワイナリー」。

 

 

 

 

 

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