27日(日)

 

AM7:30。
眩い朝日を間近に感じて清々しく目覚める。

それが隣の布団に寝る入道さんの頭だと気付くのに数秒費やす。

 

世界妖怪会議の開場は正午である。しかしスタッフは8時くらいから既に準備を開始している。
我らはスタッフではないが、いろいろ仕込みもあるし9時くらいに顔出せればよかろう。
食堂で朝飯を食らい、3人でちんたら出動準備をする。

洗面所から入道さんが使う電気シェーバーの音が聞こえてくる。その音にちょっとした違和感。
よく聞いてみると通常「ジャッジャッジャッ」と聞こえる髭剃りの音が「ジャーーーー、ジャーーーー・・・」と1ストロークが妙に長いのだ。
頭を剃っているのだと気付くのに数秒費やす。

 

 

昨日の大雨とうってかわり、空はピーカンに晴れ渡っている。
すでに暑くなってきた。

会場の三次文化会館へいざ出陣!

早くも展示中

会場にはもう既に何人かが整理券を手に列を成していた。その中に数名、異形の者が混じっている。
2年目となるこの三次もののけ祭りも、八日市の妖怪祭り同様「妖怪扮装で来場した人のみ入場料から500円キャッシュバックシステム」を採用している。もちろん妖怪パレード「百鬼夜行」もある。
ちょっと見渡しただけでも、まさかその姿でここまで公共交通機関に乗って来たとは思えないが雪女とか猫娘とかよくわかんないモノまで確認できた。これからもっと増えてくるのだろう。
負けてはいられまい。
TACも百鬼夜号の中に隠してあった「愛の妖精ぬらりぴょん変身グッズ」を運び出し、マスターらと共にスタッフ控え室へ。

 

 

スタッフ控え室には、映画「妖怪大戦争」で実際に使用された妖怪の被り物(なめくじら、髪きり、天狗)や他のスタッフが着るのであろう妖怪衣装などがさも当然のように置かれたなかなかアヤしい部屋だった。多くのスタッフが慌しく動いている。
その中に一つ、このイベント用に特注で作らせたのか「特大妖怪電球」が。

 

 

 

 

 

 

 

 

それがタトゥーシールを後頭部に貼られた入道さんだと気付くのに数秒費やす。

 

このシール、マスターが試作品として何種類か持参しており、このイベントで一般の来客にサービス配布してその反応をリサーチするつもりらしい。
好評ならいつか売り出そうと画策しているのだ。

TAC
「他所んちのイベントもちゃっかり利用して市場調査とはまったく商魂逞しいというかなんと言うか・・・」
マスター
「TACさん用にもカッコイイの作ってきたけど」
TAC
とてもよろしくお願いします(即答)

 

で、それがコレ↓。

 胸の谷間にぬらりぴょん(イヤ過ぎ)

 

「あの・・・会場前に停めてある車のオーナーの方でしょうか?」
と、声をかけられた。

TAC
「はい、そーですが」
男性
「テレビの取材班の者ですが、ちょっとインタビューさせて頂いてもよろしいでしょうか」

 

テレビキターーー-ー(゜∀゜)-ーーーー!!!

 

意外に思われるかもしれないが、百鬼夜号は新聞・雑誌・ゲームなどの取材は何度か受けているにもかかわらず実はテレビ取材は初めてである。
ついにブラウン管デビュウである。おほっ。

TAC
「いやー、はははは。まあワタクシなんぞで良ければ」←(声が裏返っている)
男性
「ありがとうございます。では、あの車の前で」
TAC
「ええ承知しました、ええ。何でも聞いてくださいよむはははは」←(やべ、オメカシしてくるんだった・・・と思っている)
男性
「ところで、TACさんも妖怪の扮装なさるんでしょうか?」
TAC
「ええまあ一応、愛の妖精ぬらりぴょんに扮する予定ですが」←(そんな事より俺テレビ映り大丈夫かしら・・・と思っている)
男性
「じゃあ、その格好でお願いできますか」

 

 

・・・テレビ映り、微塵もカンケー無し。

 

予定よりもずっと早く、ぬらりぴょんに変身するハメになる。

 

 

 

【生着替え中】


 

入道
「はい、頭はこれで大丈夫ね?
ステキ。とっても似合うわよTACちゃん」

TAC
「ホント?ワタシ綺麗?おかしくないカナ?」

入道
「おかしいかおかしくないかで言えばメッチャクチャおかしいんだけどね」

 

 

 

 

 

このぬらりぴょんは装備するのに着付け役が要る。

ヘッドを先につけると途端に視界が悪くなるので、アームをつけた後に袖口のホックを自分で留められない。
かといってアームを先につけると片手が使用不可になるので、重いヘッドを被り難いのだ。

 

まあそんなこんなで愛の妖精が完成。

七月で36歳になっちゃった今、親兄弟にはあまり見せたくない姿である。

 

周囲の凍りつく視線をビシバシ感じながら屋外に出る。
百鬼夜号の前で、テレビカメラに見つめられながらインタビウ開始。

インタビュア
「今日はどちらから?」
TAC
「岐阜です」
インタビュア
「この車スゴイですねぇ」
TAC
「いやああはははははははありがとうございます。ゴメンなさいねホントにもういい歳こいて」
インタビュア
「妖怪好きですか」
TAC
「そうですね、ガk・・・子供の頃から好きでした。ゲゲゲの鬼太郎とかもよく観てましたし」
インタビュア
「ズバリ、妖怪の魅力とはなんでしょう?」

 

(キター) 

 

TAC
「はい、妖怪ってのはですね。大変優れたコミュニケーションツールなんですね。
昔の人の
神仏を敬う心戒めなどを判りやすく伝えていく為の、もしくは原因不明の超常現象に対する彼らなりのナットクできる解釈・・・そういった背景で作られていったものでしょう?
つまり妖怪って、
考古学・民俗学や心理学、または歴史とか、いろんなものの集合体だと思うんですよ。
だから突き詰めていけば面白いし、ただのキャラクターとして楽しむ事も出来るし、
誰もがそれぞれのやり方で親しめる貴重な文化遺産なんですね」

 

 

 

 

 

 

 

ド緊張しながらも、なかなか饒舌にエラソーな事ほざきましたが。

・・・・・実際の放送では下線部の部分しか流れませんでした。(ま、想定の範囲内です)

 

 

 

時刻も10時をまわる頃になると、続々と会議参加者が集まってきた。
入り口に並ぶ列も建物の角に沿って折れ曲がり、なお伸び続けている。あちこちにハンドメイドな妖怪さんが闊歩し、時々小さなお子様の泣き声や悲鳴が響き、ワケわからん空間になっている。

トビズ君やモリピタ夫妻もやってきて、さっそくマスターに捕まりタトゥーシールを貼られていた。
このシールが結構周囲にも大好評で、本日は無料サービスということもあり希望者が殺到。
マスター、公然と若い娘さん達の腕に触りまくりの貼りまくり。

マスター
「あのなぁ、ムサ苦しい毛むくじゃらのオヤジにもちゃんと貼ってんのよ!誤解受けるような事言わないでよ」

ちなみにこのシール、毛むくじゃらの腕に貼ると糊の層が絵と共にを閉じ込めてしまうので、真っ黒クロスケもバックベアードになってなかなか良いです。(注:真っ黒クロスケのシールはありません。つか、そもそも妖怪じゃねェし)

 

 

開館までまだ時間はあるが、黒目さん他境港組がまだ会場に来ていない。あいかわらずのんびりマイペースな方々だ。
開演後、まず最初にあるのが「妖怪町おこし姉妹縁組宣言調印式」。つまり妖怪をテーマに町興しをしている境港・三次・臼杵・八日市の代表が妖怪姉妹都市としての調印を行う式典があるのだ。
境港代表は(株)千年王国社長の高橋さんだった。お願いだから遅刻は勘弁してねタカハシさん。

 

今のうちに妖怪扮装の登録しておくか。
スタッフ章下げてるから基本的に必要はないんだが、八日市でもちゃんとボケかましたし、ここはやはりお約束ということで。

受付
「それは何の妖怪ですか」
TAC
「人魚姫です」
受付
「ではココにサインをお願いします」
TAC
「・・・・・・・」
 

 

またしてもスルーされた。
三次的にはこんな人魚姫もアリか。アリなのか!(だから聞こえてねーんだってば)

書きづらい・・・

・・・・ちなみにスタッフ扱いだから入場料も払ってないし、当然500円のキャッシュバックも受けてませんよ?
自己申告なんかせずに黙って500円くらい貰っておけば良かったと実は後悔している。
(そもそもぬらり制作費で大赤字だからカンケーねえ)

 

 

この後は行列のパンピーさん相手にズームパンチでちょっかい出したり、握手や写真を求められたりしながら時間を弄ぶ。

うりゃっ どもども

 

 

 

 

確かに暑かったが、心配していたほどでもなかった。パレード本番時に備えて、まだアイスパックは発動させていない。
ズームパンチも調子よく動き、周囲の反応もなかなかイイ感じだ。
パッと見で「腕が伸びる仕様」なのはバレバレの筈なんだが、まさかココまで伸びるとは予想外らしく結構ビビられる。楽しい。

 

ひとつ難を言えば、顔が痒い時についつい無意識に手を伸ばしてしまうけど当然掻けないコト。
仕方ないので眼窩の穴から指突っ込んでポリポリ掻いてたら「気持ち悪いからやめて」と言われた。

掻きづらい・・・

 

さて、定刻となり開場。
文化会館の中へ人間と妖怪が入り乱れてなだれ込む。満員御礼満妖御霊。
最前列に関係者用の席が用意されていたのでズーズーしく座らせてもらう。

第一部の「調印式」。
境港代表のタカハシ社長もなんとか間に合ったようで、無事にサインを終えた。
その後各代表が一言づつ挨拶をするのだが、一人3分の目安だったのにヨユーで10分くらい語りくさる高橋さん。
まあ、予想通りだった。この人に好きなモノを語らせたらホント暑苦しいほどに熱いのだ。

 

第二部は「物怪神楽奉納」。
地元に拠点を持つ横谷神楽団による新作神楽「比熊山」の公演である。
これが想像してたのよりずっとスゴかった。

神楽というのはまあ平たく言えば和製ミュージカルのようなもの。能や歌舞伎や狂言の原典ともいえる舞台劇である。
「比熊山」は神楽版・稲生物怪録。この日のために新しく書き下ろされたものだ。
もともと神楽には「妖怪」を扱ったものが多いようで、登場する物怪たち(猫又・大蛇・鬼など)も他の劇で使用されるものの使い回しである。しかし初めて観るTAC(というより来場者の殆ど)にとっては新鮮で大変面白かった。

・・・だから豪胆で気性の荒い若侍であるはずの平太郎がやたら美麗な衣装を纏った天皇みたいだったのはまあ気にしないことにしよう。
力士あがりの友人・権八が色の褪せた魔王連獅子(TAITO)みたいだったのも気にしないことにする。
そしてこの二人がまたよく回るのである。もうずっと回りっぱなし。
神楽の中ではとりあえずコレさえおさえておけばなんとかなる基本技であるらしく、もう平太郎も権八も虚無僧さんまでみんなまとめてくるくるくるくる。だんだん加速してくるくるくるくる。
「白鳥の湖」に出てくるブラックスワン(黒鳥)のトゥール・フェテばりの回りっぷりである。TACが真似したら1分で多分2回は吐く。

なにより感銘を受けたのは、演劇中ずーーーーっと笛吹きっぱなしだった器楽隊のお姉さんだったり。

 

 

 

 

神楽が終わって一旦休憩に入る。
第三部がお待ちかねの妖怪会議だ。

会場の外でかなよさんに会った。生まれたてのお子さんも一緒に来てたようだが、旦那とともに会場内の席にいるらしいので見られなかった。
ぬらりでビビらせて免疫つけてやろうと思ったのにとても残念。(←この36歳は本気でやるので注意が必要です)

おーいマスター♪こらー他人の振りすなーーー

再入場。
今度は着席は最初から諦めて会場脇に陣取る。
だいたいこのぬらりぴょんが席に着いたら、後の席の人の視界を完全に遮るので「おんどれ邪魔や」と蹴飛ばされるに違いない。

水木センセ登場

メンバーもいつもどおりの水木センセ・京極センセ・荒俣さん・多田さんに加え、地元出身の人形作家辻村ジュザブロー 氏である。
氏はやはり人形を持って登場。艶やかな舞いを披露したあと、最後はイナバウワーまで決めて(笑)登壇した。

今回で11回目となる世界妖怪会議。内容は相変わらずであった。
相変わらず水木センセはノンビリでマイペースでウンコの話で絶好調だった。
妖怪の話題に関しては、「電気と学校がイカン」と、ちょっとだけ話した。

しかし間違えてはいけない。
これが妖怪会議なのである。「妖怪は実在するか」とか、歴史・民俗関連の考察など小難しい話は一切ナシ。

年に一度、皆で水木しげるという大妖怪様生存を確認し、生態を観察し、その御健勝を喜ぶという定例会なのである。

 

 

・・・・・しかし毎度他の参加者に比べると影が薄い感のある多田先生が、今回は特に後半ヒトコトも話してなかったような気がする。

 

 

 

 

さて、妖怪会議が終わった後はぬらりぴょんにとってのメインイベント(そうだったのかよ)「百鬼夜行」!
三次の町を百鬼夜号に先導された妖怪軍団がパレードします。

昨年は第一回だったこともあり参加者は少なかったが、今年はスゴイ。ざっと見渡しただけでも100人くらいはいるんじゃないか?
外はまだまだ暑い。TACさん、さっそくぬらりヘッドとウェストポーチ内に仕込んだ冷却パック「桐灰レイカ」にパンチ入れて発動!・・・なんか感触に違和感があったがとりあえず気にせずヘッドを再装着。

 

 

 

・・・・・ところで会議終了から姿が見えないがマスターたちは何処にいるんだろう?

 

会館前を探しているうちに「三次どんちゃん」の祭囃子が聞こえてきた。やばっ、もうパレードがスタートしてるのか!
ぬらりぴょん、大慌てでパレードを追う。
まあ、どっか写真撮れる場所陣取ってスタンバイしてるんだろう。そのうち会えるさね。

 

はい、写真による詳しいレポートを期待していた方、ゴメンなさい。
今回入手できた写真、実はコレ一枚だけです。

結局、撮影班のマスターは最後までパレードの場に現れやがりませんでした。

仕事は早いが諦めも早いマスター。
「気がついたらもうパレード出発しちゃってて誰もいないんだもん。まーイイかって」

 

 

 

 

 

 

・・・・・全てが終わり、パレード終点の三次市立歴史民俗資料館から文化会館までの道をぬらり姿で一人歩いて帰る時の寂しさったらなかった。
 

 

 

 

 

 

そういえば百鬼夜行参加者の中に、全員が映画「妖怪大戦争」の登場妖怪に扮した大所帯の集団がいた。なんか異様にクオリティが高いなと思ってたら滋賀県八日市の皆さんだった。さすが「妖怪地」の貫禄か。
 

ところで彼らに混じってパレードしていたこのポニーさん。


ギャラリーにも大人気で、「あー、ユニコーンだー可愛い〜〜〜」「ペガサスじゃん☆」とモテはやされ、写真にも撮られまくっていたのだが。

 

 

誰も気付いてあげてないようだったので一応フォローしとく。

多分、彼は「麒麟」のつもりだったんだと思うぞ。

 

 


文化会館に帰ってくると、例によって仕事終わってから駆けつけてくれたはっちーとその従姉妹ちゃんmayちゃんノリマキ、そしてなんと予告ナシにはるばる東京から帰ってきたドット絵職人サルヲっちがいた。ビックリ。

ココで会ったが100年m先日は大変ステキなもん作ってくれてありがとうサルヲっち☆

(参照)

 

 

吉川さんらスタッフの皆さんと境港組に別れを告げ、6人で夕飯を食いに行く。
ワニ(鮫の事)は旨かったし、may&ノリマキの二人から大変めでたい報告も受けたし、広島最後の夜に楽しい思い出が出来た。
皆、ありがとう!

はっちー
「暑かったでしょ?ところで例の冷却パックはちゃんと冷えたん?」
TAC
「いや、それがさ・・・。全っ然、効果なかったんだ。パンチ入れた時なんか感触が柔らかかったもんだからオカシイとは思ったんだが」
はっちー
「それって・・・」
TAC
「うん。もう使用済み状態。つまりさ、運搬中だかなんかに衝撃で中の内袋が破れて勝手に反応始っちゃってたみたい。結局誰も使ってない状態のぬらりヘッドとウェス トポーチを人知れずこっそり冷やしてくれただけ
はっちー
アホかい

 

その後、積載車に百鬼夜号を載せに行き、21時半頃帰途についた。

 

 

 

 

美濃へ向けて、深夜の高速をぶっ飛ばす。

今年の三次も本当にアツかった。
夏の日差しも、もののけプロジェクトの熱意も、妖怪ファン達のパワーも。

 

日本全国で、妖怪の力が町に元気を与えている。
電気によって豊かさを得た人々が、電気によって失われた大切な何かに気付き始めたのかもしれない。
ならばこのムーブメントは絶やすべきではない。
妖怪には、もっともっと町や人間に元気を与えてくれる奥深い力と可能性があるような気がする。

そんな力の一端を担う事が出来るなら、そんな嬉しいことはない。
百鬼夜号がこの先いつまで走れるかは判らないが、行けるトコまで行ってみようと思う。

 

 

・・・うん、行こう。

百鬼夜号と共に、
誰かが待ってくれてる・・・
うんと遠いトコ
まで。
←(次章への伏線)

 

 

 

 

 

2006 三次もののけ祭りレポ
おしまい

 

 


 

 

 

【次回、最終章】

 

 

 

 

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